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すぐ近くで蝉が鳴いてる。
中学生の時に蝉を煩わしく感じ、なぜあんなにも鳴くのか気になったことがある。そうして蓋を開ければ蝉の求愛行動と知って、調べたことをひどく後悔した。
理玖の代替え要員として、校舎裏の花壇に水やりをする。片手間に水を浴びせられた花は、水滴に周囲の景色を取り込んだ。もしそこに夜が映ったなら、昔見た幼い紘太郎の瞳と似ている。
花壇に咲く花のどれもこれも、伊織にとっては同じ花だ。ただ漠然と、綺麗だなと思う。それでも、あの瞳には遠く及ばない。
いちご牛乳を啜り飲み、残る花壇を目視で数える。三面もあって面倒になり、その場からホースを向けて水撒きした。奥まで届いてないが、少しくらい許せよと適当に終わらせる。
蛇口をひねってホースを抜き、簡単にまとめて用具室へ足を運ぶ。ほど近い距離に用具室はあり、軋む音をたてながら引き戸を引いた。
中は少し、古い匂いがする。入り口真正面の窓から差す斜陽が、室内を橙色に染めた。
左側の棚に沢山のホースが置かれていて、持ち出したホースも元の場所に戻す。中に残っていた水が、滴となって落ちゆく。
入り口で音がした。
小さな音は静かな用具室に響き、驚いて肩が跳ねる。顔を動かして見れば、ホースを持った男が立っていた。男も驚いたようで、僅かに目を瞠ってる。
健康的に日焼けした肌、傷んで僅かに色素の抜けた髪。はっきりとした端正な顔立ち、同世代の平均より高い身長。
この学校に通っていれば自ずと知る、話題に事欠かない人物。運動ができて頭も良く、コミュ力の高い隣のクラスの東堂茜だ。
一度だって話したこともない、苦手とする類の奴だった。
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