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一進一退の攻防1
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世の中、良い出来事も悪い出来事も同じくらいであるらしい。どちらも人生という長い期間で見れば半々で、みな平等ですと教えを説くように誰かしらが話すのだ。
「心配はない、大丈夫」
「悪い事はそう続かない」
「これは乗り越えるべき壁だ」
そんなもの、虚言、妄言、戯言である。
いかにも耳障り良く、得意げに訳知り顔で、詭弁だらけの不確実なご高説。慰めにならなければ役にも立たない、話手の自己満足かつ自己完結でエゴの塊だ。誠実さを押し売りする、不誠実な言葉の羅列である。
諭すように論を語る連中は大抵の場合、たいした不幸に遭遇していないものだ。
大小は無いと薄っぺらな綺麗事を吐きつつ、内心ではそんなもの嘘だと知っている。理想だけで生きていけるほど、現実は甘くないと、知っている。
昨日の用具室での出来事は、いくら消したくても消せない、三次元で起こった現実だった。
逃げたバイト先の喫茶店で、客をそっちのけに延々と考えた。その度に背筋が冷え、挙動不審な接客をしていた。
見兼ねたマスターに早退を言い渡されてしまい、落ち着かないまま絋太郎の住むアパートまで帰った。数刻後、バイトから帰宅した絋太郎から煙草の吸い過ぎを怒られ、果ては吐露した懊悩を笑われた。
もちろん憂さ晴らしをした。三日の連勤を言い渡されたと愚痴る絋太郎に、ざまあみろと言って笑ってやった。休日前の金曜日だから、その効果は言わずとも知れる。
夕陽に照らされた花壇を遠い目で見た。今頃、絋太郎は定食屋でせっせと働かされている。
「随分……直情的で直球な告白をされたもんだな」
腰に手を当てて水を撒く理玖は、何とも取れぬ表情で漏らした。
理玖は緑化委員会に所属している。緑化委員は各自、一週間交代での花壇の水やりが仕事だ。門前、校舎周り、校舎裏、部室棟、規模によって人数を割り当て、ローテーションを組むそうだ。
「今週はあいつも部室棟の当番だったからなぁ」
件の茜もまた、緑化委員の一員だった。委員会の所属先はどうでもいいが、今後も変に絡まれるのは勘弁だ。
いちご牛乳だけでは割りに合わない。安請け合いして当番を変わるんじゃなかったと、恨みがましく思う。
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