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サンプル1
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駅から徒歩十分。ビルの一階にそのお店はあった。
執事堂。BLカフェとして評判の高いそこのコンセプトは「執事達の秘密の逢瀬を覗き見る」だ。
内装は、中世ヨーロッパの上流貴族の屋敷をモチーフにしている。アンティーク調の家具。シックな内装。壁紙のように、本棚に詰められたハードカバー製本。全員服装は執事服で、彼らの絡みを見ることができる。予約制になっているが、のぞき込めるスペースもあり、そこで自分の好きなカップリングの絡みを見ることができるオプションがとても人気で、既に数か月先まで予約が埋まっている状態だ。
いつもなら賑わっている店内だが、今は開店前のせいか、店員の開店準備の音だけが鳴り響いている。そんな中、二人の男が机を挟んで向かい合わせに座っていた。
一人は、執事服を着ているところを見ると、この店の店員なのだろう。年齢は三十代前半か。オールバックに整えられた黒髪。渋さと彫りの深い顔立ちが、彼のカッコよさを引き立てていた。
一方、反対側に座っている青年は、緊張しながらも、どこか珍しいのか、視線をさ迷わせていた。
年齢は、十代後半か、二十代前半だろう。天然ものと分かる綺麗な金髪。澄んだ空のような、綺麗な青い瞳。整った顔立ち。すらりとした体格。まさにイケメンを絵にかいたような人物がそこにはいた。
男は、暫く青年の顔を見ていたが、やがてゆっくりと口を開く。
「えっと、由比ヶ浜流くんであってたっけ?」
「はい。そうです」
「俺は、この店のオーナーの花菱昴。よろしく」
「はい」
「えーと、由比ヶ浜くんって、外国人? 名前からして、ハーフ?」
「ハーフです。母がイギリス人で。けど、オレは生まれも育ちも日本です」
昴の眉が微かに上がる。その仕草に流は、どきりと心臓が跳ねるのを感じた。
確かに自分は、母親の血が色濃くでているが、そこまで日本人離れした顔でもないはずだ。
もしかして、ここは生粋の日本人しか働いてはいけないのだろうか? 極度に緊張しているせいか、言いようのない心配が流の中に膨らんでいく。
「あー。違う違う。少し驚いただけ。だから、そんな不安そうな顔しなくて大丈夫だから」
「そうですか……びっくりした」
「ごめんごめん。それで、由比ヶ浜くんは、ここで働きたいんだよね?」
「是非とも働きたいです!」
「ここが、なんのお店か知ってる?」
少しきつめの口調で投げかけられた質問。どこか値踏みをするような視線に、流は居心地の悪さを感じた。だが、質問に答えないという訳にもいかないので……。探るような目線を昴に送りつつ、正解だと思う答えを言葉にする。
「BLカフェ、ですよね?」
「そうそう。どういう事をするところか、分かってる?」
「男の子同士がいちゃいちゃするのを、女の人に見てもらうカフェ、ですか?」
「なるほどね」
昴は、机の上で手を組む。
これから自分は昴に、なにを言われるのだろうか? 流は生唾を飲み込んだ。
自分の顔は普通よりも整っているし、こういう女の子にキャッキャされる場所に自分の顔立ちが向いていることも流は気付いていた。もしかしたら、このまま承諾を受け取れるのではないだろうか?
そんな微かな期待と不安に揺れ動いている流に、昴は一言。
「君、ノンケでしょ? 俺の目は誤魔化せないから」
「へ?」
流は一瞬、なにを言われたのか、分からなかった。ノンケ。その言葉自体は聞いたことはあった。だが、流の日常に馴染みがなさすぎたせいか、思い出したいのに、まるで喉の奥に引っかかってしまったかのように、言葉の意味が出てこなかった。
「ノンケの意味が分からないって顔だね。ノンケっていうのは、女の子を好きなーまぁ、いわゆる健全な男の子のこと」
「はぁ」
「ここね、バイかゲイしか働けないんだよ。ちなみに、バイはパートナーがいる人限定」
「……へ?」
「ほら、こういうお店だしね。あと、女の子といざこざ起きて欲しくないし。だから、そもそも働ける絶対条件を君はクリアしてないってわけ」
昴の呆れた表情に、流は思わず唇を噛む。思いもよらない返答に、頭が混乱する。心が冷たくなっていくのを感じた。
「君の顔ならどの職場でも引っ張りだこだろうし、わざわざこんな場所で働かなくてもいいと思うよ」
確かに昴のいう事は、一理ある。だが、絶対に諦めるわけにはいかない。彼には、ここで働かなければならない理由があるのだ。
なら、今、自分ができることは一つしかなかった。
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