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私だけの。 zmem (ハッピーバレンタイン!)
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私はあの箱、あの袋を未だに持っている。それは質素で、センスを感じられないようなもので。だがそれでも確かに、彼が選んでくれたものだ。
私は彼とは幼なじみだった。平凡な性格、平凡な顔をして生まれてきた私は、神様からその他の平凡を与えられなかった。
自分は男なのに、幼なじみの男を好きになってしまった。
きっかけなどはない。好きになった理由はないのだと、私は静かに目を閉じ感じた。
zm「エーミールも俺も、どうせ今年も貰えないやろうし」
そう言って彼は白い箱を差し出した。
中には甘い甘い、チョコレートが入っていた。
そういえば今日はバレンタインだった。女子に興味がないもので、かつイベントには疎いもので、忘れていた。
私はそのときのその箱を大事にしまっている。
この箱に彼の指紋が付着しているのだと思うと、私は欲情してしまった。
彼から貰った箱を永久保存しようと、ティッシュで表面を拭こうとは思ったときもあったが、彼がこの箱を渡してくれたという証拠を消すことが私には不可能だった。
翌年も、その次の年も。彼は私にチョコレートをくれた。
彼は決してモテないわけではなく、チョコレートを貰っているはずなのに、それでもお決まりは「今年も貰えないやろ」という言葉。
私は彼がモテることに嫉妬をしているはずなのに、彼が私にチョコレートをくれると、少なからず優越感を感じてしまった。
10年間、私は彼に片想いをしている。
彼にチョコレートを、もとい包装を。それを貰う度に思う。
私が彼に対して思っていることが、私の口からではなく、どこか違うところで気づかれてしまえばいいのに。
自分で言う勇気はないが、気づかれてしまえばどんなに楽なのかと。それでも彼は、私の想いに気づいてくれはしない。
きっとこのまま。この気持ちは墓場まで持っていくことになるだろう。
私は溢れかえった包装の1つを、ひとなでした。
彼の指紋に触れると、彼と私が手をわせているように感じる。
私はまた、静かに目を瞑った。
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