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Episode 69
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「…………っふ、ぅ゛……」
穏やかに息をする鴇の喉へ指を絡める。
延命治療の終わりを夢想したことがあった。
下らないことで笑い合う平穏を願ったことがあった。
本来当然に与えられるはずの日常を欲したことがあった。
自らに害なす存在の消滅を抱いたことがあった。
両掌に力を込め、歯を食い縛る。
溢れて止まらない涙が鴇の肌に落ち、シーツへ滴った。
「……にいさん、にいさん……」
次第に浅くなる呼吸、騒がしく喚く機械。
こうすることを、考えない日はなかった。
生命の終わりは酷く呆気なかった。
不思議と誰も病室を訪れない。
鴇は死んだ。実感のない現実が浅葱を襲う。
まだ温かい手を頰に当て、呼吸を放棄して間もない唇へ口付けた。
「……さよなら」
呆気ない終わりは果たして浅葱を救ったか。
答えは否、だ。
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