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Episode 70
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誰にも咎められることなく、浅葱は病室を出て、階段を使い、ゆっくりと屋上へ向かった。
固く閉じられていたはずの扉は開いている。
ギイ、という音と共に扉を開け、吹き付ける強風に身震いした。
見上げた空は嫌味なほどに晴れ渡っている。
人を殺した、それも愛する兄を。
首を絞めた感覚は今も生々しく残っている。
フェンスを軽々乗り越え、向こう側へ立つ。足を取ろうと吹き抜ける風、行動に反して両腕はしっかりフェンスを掴んでいた。
この期に及んで死にたくないのだと、浅葱は自分を嘲笑った。
人を殺した先の地獄が恐ろしいのだろうか。
「……ボクは、自由になりたかった」
何もかもを捨てた誰かに、兄さんに、ボクを愛して欲しかった。
震える足を叱咤し、フェンスと向き合う。
フェンスから手を離すと同時に訪れる圧倒的な浮遊感に目を瞑る。
終わりを決めた生はこんなにも尊く、涙が出るほど大切だった。
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