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変化への一歩
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驚いた。
お父さんと大輔さんが一緒に帰ってくるとは、思っていなかった。
大輔さんは家に上がると、お母さんと大吾に挨拶をして、
「話がある。」
と言って俺を連れ出した。
もしかしてお父さんから別れろと言われたのではないかと思って、手が震えた。
大人同士で話をするって聞いていたけど、内容については怖くて聞けなかったからだ。
どうしよう・・・。
俺、もう大輔さんがいないと生きていけないのに・・・。
やっと見えた光を奪われたような気がして、足に力が入らなかった。
ふらふらとついていきながら、ギュッと唇を噛み締めた。
いつもの大輔さんの車の助手席に乗り込むと俯いた。
ぽんぽん、と頭を撫でられて驚いた。
顔をあげると、大輔さんが優しい顔をしている。
「お前、いままでよくグレずに頑張ったな。家にいるの、辛かったろ?」
労りの言葉に、涙が溢れた。
熱くなる目を大輔さんの胸に押し付ける。
止めようもない嗚咽が、車の中に響いた。
「お、おれっ・・・。」
力強く抱きしめられて、余計に涙が溢れる。
そんなこと、今まで誰にも言われたことが無かった。
「卒業式が終わったら、うちに引越してこい。親父さんとは話がついた。」
「うぇぇっ、・・・ひっく・・・っ。」
あと2年の我慢だと思っていたのに、こんな事があるなんて。
もう、あの居場所のない家から出ることが出来るのが信じられなくて。
ただただ、泣いた。
「ただな。約束して欲しいんだ。」
そう言うと光太郎は濡れた顔を俺の胸から離して見上げてきた。
赤くなった目元や頬が、我慢してきた今までの思いを物語っていた。
「な、に?」
か細い声。
不安を取り除くように微笑んであげる。
「親父さんから食事に誘われたり遊びに誘われたら、行ってきて欲しい。お前の帰る家は俺のところなんだから、ちょっとだけ親孝行してきてくれないか?」
親孝行と言われて、光太郎が目を彷徨わせた。
きっと、母親のことを考えているのだろう。
「大丈夫。嫌がられはしないよ。」
「・・・ほんと?」
不安そうな顔をする光太郎の頬を撫でた。
「ほんとほんと。逆に嫌がられたら俺に教えてくれないか?魔法をかけてやるから。」
「あはっ、魔法、使えちゃうんだ?」
やっと笑顔を見せた。
額から髪を梳きながら頭を撫でる。
「そ。大人になると魔法が使えるようになるんだ。」
「俺も使えるようになる?」
「センスの問題だからな。光太郎はどうだろうな?」
狭い車内でくすくす笑いあう。
涙の止まった光太郎に、これからのことを話した。
「お前はまだ未成年だ。俺はお前を父親から預かった。親父さんはな、お前のことを愛してるよ。」
「・・・。」
だけどな。
俺がお前を側に置いていたいから、父親のもとから引き離す。これは親父さんも最終的には同意してくれたが、お前が自分から捨てられたんじゃないかと思って傷付くんじゃねーかと心配してたよ。
おまえら、素直に向き合えばいいのにな。
告げられた言葉が、胸を抉った。
お父さん、心配してくれたんだ。
俺が傷付くんじゃないかって・・・。
「今度、メシ食ってこい。ちゃんと向き合えよ。」
「・・・うん。」
すぐに心を開けるは分からない。
でも、ちょっとずつ、お父さんが笑ってくれたらいいなと思う。
「ほら、家に帰って親父さんにありがとうって言ってこい。4月からの学校も頑張りますってな。」
「うん!」
心の距離がどんどん近くなって、普通の親子の関係になれるといいな。俺もサポートするよ。
雨が降っていたのは昼までだった。
午後からは晴れ間の見えた26日。
俺たちの心は雨に洗われて、この星空の下で幸せに微笑んだのだった。
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