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氏原side‥₂
エレベーターまで辿り着いても、僕が手を離さなければ、
高木先生からも離すことは無かった。
高木先生は空いた手で8と13のボタンを押す。
3,4,5…と表示が切り替わる。
僕達の手が離れるまで、あと何秒くらいあるだろう
このまま故障でもしてしまえばいいと思ったけれど
そんなに都合よく行くはずもなくて…
”チン…8階です”
ついに僕達を引き離す音が聞こえた。
手を離す彼が、少し寂しそうな顔をしたのは
僕の都合の良い目が錯覚でも起こしたのだろうか…
開いた扉の向こうに足を踏み出し、扉に手をかけて振り返る高木先生。
「じゃあ俺ココなんで、気をつけて帰ってくださいね」
そう言って踵を返すと、一歩、また一歩と
彼の背中は遠くなる。
いやだ、まだ離れたくない―…
「…え、……氏原、先生?」
考えるよりも先に身体が動くだなんて
聞いたことはあったけど……………。
扉の向こうに消えかけた背中は、今僕の目の前にあった。
閉まりかけた扉を押し返し、おもむろに走り出した僕は
高木先生に思い切り抱きついていた
「あ、の…氏原先生?…エレベーター行っちゃうけど…」
「…」
”上へ参ります”
「あ、ほら…」
少し後ろに、機械的に話す女性の声を聞く。
無人の箱は13階を目指し、再び上昇して行った。
でも僕は、それでも高木先生を離さなかった…
いや、離せなかった。
行動を起こしたもののここから先どんな言い逃れをしたらいいのか、頭が冷静さを取り戻せば、かわりに身体がブワッと熱くなるのがわかる。
流石に、これはもう…どうやって言い訳をしたら……
「……やっぱどっか具合悪いんですか?顔も赤いし…」
「え?…あっあの…」
クルッと振り返り、僕の頬に手を添えた高木先生を見上げると、綺麗に整えられた吊り眉を歪ませながら、僕の目を真っ直ぐに見つめていた。
こんなに、こんなに心配してくれているというのに…
自分勝手な僕は、それを利用し、また嘘を繰り返す
「はい、怠くて…もう…本当は動くのもつらくて…」
少し悩む素振りを見せた彼が、次に発する言葉は
予想していた通りのものだった。
「もう遅いし…俺ん家でよければ、休んでいきますか?」
──あぁ、どこまでも、僕は卑怯。
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