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どこからか、小さな物音がした。
食欲を誘う匂いと、よく知った甘い香り
これは…
…………先輩?
それはもうずいぶん前の記憶だった。
俺が熱出して中学を早退した日、共働きの両親は
どうしても俺を迎えに来ることが出来なくて
強がって平気な振りして学校を出ると
ノロノロと帰り道を歩いてた。
するとあまり遠くもない距離で、
なんか今までに聞いたことのない音が聞こえて
すごくきれいで名前も知らない曲に聞き入って
ボーっとしてたけどその音色は今でも鮮明に覚えているくらい
本当に、本当にきれいで。
気付いたらおぼつかない足取りで
音が聞こえる公園の、奥にあるベンチに向かってた。
その楽器がアルトサックスなんだって知ったのは
それからしばらく経ってからのことで
ふらふらする…あー、多分また熱上がったかも。
これ、俺家までたどり着けるかなー…。
まぁでも、こんなきれいな音聞けたなら
ここで死んだって…まあいっかー……。
とうとう意識を手放そうとしたその瞬間、
綺麗な音がぷつりと止まった。
…あれ、俺もしかして死んだの?
「…ちょ、ちょっとあなた大丈夫?!」
音が止んですぐ。
その音がした方から聞こえてきたのは
心地よく耳に通る、アルトサックスの音色にも
負けない綺麗な声だった。
「すごい熱じゃない…この制服だと、東部中よね…
学校まで戻った方がいいかしら…家はどのあたり?」
なんかボソボソ言ってる女の子を見つめながらも
頭はもうほとんど働いていない。
「……んー…?さっきの綺麗なのはー……?」
またあの音を聞きたい。
それだけが脳内にこびりついていて
俺はそんなことをうわ言のように言っていた。
「……はぁ。これじゃだめだわ…生徒手帳貸しなさい!」
そこからは、意識もはっきりしないまま、生徒手帳とか
見られて(多分住所とか確認したんだと思う。)
そんなに遠くないわねとか呟いたと思ったら
俺の腕を肩にかけて、よろけながら歩き出した。
何なんだ、この女って思った。
それが先輩との出会いだった。
先輩は俺の家まで到着すると、胸ポケットに
しまってあったキーをいともたやすく見つけて
そのまま俺をリビングまで引きずり込んだ。
「…えっと、お邪魔、します…」
「ここまで来てそれ言うの…」
「一応、礼儀でしょ??それより学校は早退?
迎えはどうしたのよ?こんなフラフラでかなり熱もあるんじゃ…」
「…んー、ちょっとうるさいって…
寝たら治るし…親帰るの12時すぎるから…zzz」
俺はそのまま意識を手放した。
ていうか、多分家に帰れた安心感で深く眠っただけなんだけど。
目を覚ます頃にはこのきれいな音を奏でたオネーサンも
居なくなってるものだと思ってた
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