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氏原side‥₃
心地良い日差しに涼しい室内
こんな環境の中で、眠くならない方が難しいと思う。
昨日あれやこれやと康明に手を焼きすぎて
ベッドに入ったのは2時を回っていたっけ。
止まらないあくびに開く口を手で押さえながら、
眠気覚ましに一服しようと今日初めて保健室を出た。
鍵を閉めて循環中の札をかけて、のんびりと足を踏み出す。
「うーわあっつ……。」
夏休みも終盤だというのにこの耐え難い暑さ。
すれ違う中年の男性教諭からは脂汗が伝っていて、
見るだけで暑い。もう存在が暑い。
自分がそんなに汗をかかない体質でよかったと思う。
あんなにダラダラ汗かいてたら汚いし康明に嫌われそう
だしね…。
のんびり歩いて、すれ違う生徒に適当に挨拶を返して
喫煙所に辿り着いた。
…あ、誰もいない。
ストーカー並みに遭遇するナルも今は課外の最中だろうか。
人気のないその室内にはむわっと広がる独特のにおいがあった。
火をつけて
奥深くまで吸い込んだ煙を
外に吐き出して
そんな機械的な動作を繰り返す中、いつの間にか2本目を取り出していた。
気を抜くとまるで呼吸かのようにいつまでも吸い続けてしまうのは悪い癖だった。
「…………康明がいなきゃ…つまんないよ……。」
今日、康明を休ませたのはほかでもない僕なのに
彼のいない学校はつまらなくて色褪せていて
こんなにも寂しい。
なんて矛盾した思考だろう。
誰にも聞こえない小さな声で呟いた。
もちろん、周りには誰もいないんだから、聞かれることなどないのだけれど。
重い足取りでようやく一歩を踏み出し、
喫煙所の扉に手をかけた瞬間、スマホが震えた。
それも1回や2回ではない。
何度も、連続して鳴り続けるバイブ…。
もう、開かなくても誰なのかはわかっていた。
以前薬局で渡辺さんと遭遇した際に
”わりと会いたくないランキング”にランクインしてるなんて言ったけど
あえて№1と言わなかった原因はここにある。
念のため、鳴りつづけるそれに目を向けると
おびただしい数のメッセージが届いていた。
”先生いないの?”
”循環中なら学校にいる?”
”鍵が閉まってて入れないんだ”
”先生?”
”どこにいるのー?”
”早く会いたいよ!”
”もしかしてトイレ?”
”今行くね!”
”あれ?いないなー”
”どこ?早く来てよ!”
”先生がいると思って今日も来たのに!”
まだメッセージは終わらない。
適当にスクロールしているとようやく終わりが見えて
ほっと息をついたのもつかの間。
”来てくれないなら僕もう帰るよ”
”一生学校なんて来ないから”
”あと3分だけ待つね”
”よーい”
”スタート”
「………はぁ…。」
左手で後頭部を掻きながら、仕方なく足を速めて
保健室に向かった。
扉の前に見える人影
こちらに気が付いてにこっと上がる口角
距離が近づくにつれてよく見えてくるその生徒の姿。
某ランキングの圧倒的№1に咲き誇るのは
「…トモナリ君。」
「氏原先生、おはよ!先生と一緒にご飯食べたくて
今日も登校したよ!早く入れてよう。」
この男子生徒だった。
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