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氏原side‥₄
「氏原先生、おはよ!先生と一緒にご飯食べたくて
今日も登校したよ!早く入れてよう。」
「…いいけど……今日は午前で学校は終わりだよ?」
保健室の前で僕にメッセージを送り続けていたのは
僕が赴任してきてから1週間くらいのあの日に告白してきた生徒
あの時はこの生徒のことをあまり知らなくて
保健室登校を余儀なくされているような生徒を
放っておくわけにもいかなくて
つい連絡先を教えてしまった。
それがこんなことになるとも知らずに………。
「うん…そうなんだけどね?家に居てもやる事ないし
先生がいるココの方が楽しいんだ!」
…悪い子では、ないんだけどな…。
人と話したり関わることは決して嫌いではない
はずなんだけど
…どうにもこの子は苦手だ………。
『氏原先生が来なければあの子がこうしてまた学校に
来ることはなかったかもしれないんです!
本当に感謝しています…!!』
そう言って瞳を潤ませながら僕にクッキー持ってきた
この子の担任の姿を思い出す。
自分のクラスで不登校…
ましてや自主退学目前の生徒がいたんじゃ
今後の教師生活にも影響しかねないからね。
もちろん手作りらしいそのクッキーは
康明の目に入らないように帰ってすぐゴミ箱の底の方に捨てた。
かわいそうだったけど。
自分は何もしないくせに
保健室に顔すら出さないくせにそういうときだけ綺麗事並べて…
他人事だよなあ…
「あっ、氏原先生今日は弁当作ってこなかったんだね?」
「あぁ…そうなんだ。ちょっと寝坊しちゃって…」
「へー!先生でも寝坊することなんてあるんだね?
珍しい…他にも理由がありそうなんだけどなー?」
怪しげに笑うトモナリ君にぞわりと鳥肌が立った。
こういうところが苦手なんだよな…まるで僕は全て
わかってますとでも言うようなこの顔……。
確かに今日、弁当をコンビニで済ませた理由は寝坊なんかじゃない。
寝ぼけながら出勤支度を始める康明をなんとか
ベッドに詰め込んで、ようやく寝息が聞こえてきた頃にはだいぶ時間が迫っていて弁当どころじゃなかった。
もう出勤日の朝の康明の姿は何度も見ているけど
この特技ばっかりはいつまでたっても慣れない。
目覚ましを止める
着替えながら歯ブラシを咥える
髪を整える
という家を出るまでの一連の流れを8割方眠った状態で
やってのけるんだから…
本当おかしくて笑っちゃう
「せーんせい?何考えてるの?」
不意に声をかけられてハッとする。
康明の記憶に浸ってつい忘れていた。
目の前で面白くなさそうにこちらを見る
厄介な生徒の存在を。
「僕といるのに他のひとの事考えてるの?」
「何でもないよ。少しボーっとしちゃっただけ。
…トモナリ君、1時から職員会議なんだ」
「そうなんだね!僕先生が戻ってくるまで待ってるよ!」
「だーめ。保健室は僕がいない時は鍵を閉める決まりだ。
それに校舎も今日はもう施錠する時間だよ。」
「………………。」
そういうとトモナリ君は決して僕から目を離さず、
じっと無表情で固まっていた。
この、何を考えているのかが全く読み取れない表情が
何よりも苦手だった。
「…まだ少し夏休みの課題残ってるでしょ?明日まとめて
見てあげるから…。今日は帰りな?」
「わかったよ!じゃあ明日も来るね!明日はもっと
長い時間先生といられるんだね!僕嬉しいなっ」
トモナリ君は不自然なほどにっこりと笑って
食べ終わたパンの袋を近くのごみ箱に投げ入れた。
おかしなことをしてるわけじゃないのに
何故こんなに鳥肌が止まないんだろう
この子といると食欲すらなくなる……。
半分も食べていないコンビニ弁当を袋に戻し、
彼が保健室を後にするのを
ひきつる笑顔で見送った。
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