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鍵とチェーンロックを解き、扉を押せばそれは思いのほか勢いよく開いた。
多分、向こう側からも同じタイミングで引いたのだろう。
「あー、靴またこんなに散らかしてー!」
こうしてよく家に呼ぶようになって知ったのは、幸人は主婦的な一面を持っているということ。
さっき慌てて服やらタオルやらを洗濯機にぶち込んだのもそれが理由だ。
男の一人暮らしにそんなに期待しないでほしいものだが、幸人だから呆れられたくなくて少しは自分も気を付けるようになった。
まだたりないらしいけど。
「おじゃまします。」
「文句言う前にまずそれだろ。普通。」
えへへと笑う幸人の服装は、半袖のTシャツ。
俺の前では無理する必要はないと気を許してくれたのか、暑い日は半袖を着るし料理を作る時には袖を捲り上げるようになった。
幸人の心に負った深い傷を、少しずつでも緩和していけたらと思う。
「っつーか幸人寝てると思ってた。」
どちらからともなくベッドにダイブすると、スプリングが大きく揺れた。
一番明るくした照明を少し暗めに設定する。
「んー、元から眠りは浅いからね。それに8年ぶりの体育祭なんだから、素直に寝れるわけないでしょ?」
そういうものなのか。
お前体育祭楽しみで眠れないなんていくつだよって一瞬思ったけど、それ言っちゃうとせっかく来てくれたのに怒ってさっさと帰って行ってしまう気がして、その問いかけは心の中だけにとどめた。
お互いに多忙な時期で、ここ最近仕事終わりにこうしてどちらかの家に行くと言う事がなかったからか、
久しぶりの感覚に少しばかり胸が高鳴った。
もう慣れてしまった狭いシングルベッドでの眠り方は、少し端に寄った俺が右腕を伸ばし、幸人がその腕を枕にして向かい合う形になるもの。
細い右腕は俺の背中に回されている。
随分と慣れてしまったものだ。
そして、いつもと変わりないのであれば、ここから始まるのは―――…。
ちゅっ
控えめなリップ音を立て、幸人は俺の唇に吸い付いた。
ほら、こうなることはわかってた。
それが今の俺にどれだけ苦痛なのか、こいつはわかっているんだろうか。
「わ……久しぶりにした…っ」
手で口元を覆いながらも耳まで赤いその表情は扇情的で、抑えきれていない欲が顔にしっかり出てやがる。
「や、今無理。マジで無理。その顔やめろ。」
「ま、待ってどんな顔?普通の顔なんだけどこれ…」
幸人自身気付いていないようで、本当に驚いているようだった。
軽くでこピンでもしてやろうと、中指と親指を合わせて額の前で構える。
するとギュッと固く目を閉じて、まるでダンゴムシにでもなったかのように体を丸められた。
「……そんな怖い?」
「……妹のしか食らったことないから常人のレベルはわかんない、けど
…妹の威力すさまじすぎて軽く恐怖症。」
とんでもなく真面目な顔をして言うには可笑しすぎるその発言に頬が緩む。
でも俺も、常人とそうではない者に振り分けられるとしたら、後者に当てはまるだろう。
なんといっても、でこピン一つで兄貴を泣かせたという伝説を持つ先輩から直々に伝授したんだから。
中指一本で朝刊一日分くらいはたやすく貫通できる。
気がする。
…やったことないから知らないけど。
一通りバカにしまくった後、笑い疲れた俺ははぁ。とため息をつく。
さっきまで丸まっていた幸人も再び体勢を整えると、胸元に置かれた手で俺の唇をそっと撫でる。
上目遣いの潤んだ瞳がしっかりと俺の瞳を捕えた。
「ね、もう一回……したい。」
「…今のは笑って平和に寝落ちるやつだったろ。」
「…ん、でも……っ」
せがむ様に、縋る様に、襟元をきゅっと掴まれる。
だから何でこうなるんだってば。
抑えのきくうちに、さっさと眠ってしまおうと思ったのに
いや、多分もう抑えきれねえな。
遅かった。
するりと髪の間に指を入れ、耳をくすぐりながら顔にかかる髪を退けると、幸人はくすぐったそうに身を捩って吐息を漏らす。
その吐息すらも逃がさないよう、その唇を食んだ。
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