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渡辺side‥
朝からひと仕事終えて、既に目はちょっと疲れてて、
でも高木っちに今日のウチを褒めてもらえて、そんな疲れはぶっとんだ。
ゼッケン縫ってあげた子が、器用だなって褒めてたよーって教えてくれて、昔陰キャやってた頃の趣味が無駄にならずに済んだなーとか思ったりして。
昨日、ブリーチで色抜けまくり傷みまくりの髪を久し振りに美容院でそこそこ蘇生してもらった。
普段はお金無いしセルフでやってたから、ムラの無い黒く染まった髪が、実は自分でも気に入ってる。
まあ、そろそろ髪も限界かなって思ってたし
今日だって長距離に選ばれて汗でメイクなんて落ちるのわかりきってたし
ナチュラルメイクにあの髪色じゃ似合わないのはわかってたし
イメチェンだから。
別に高木っちに言われて路線変更したとかじゃないから。
自分にそう言い聞かせてみる。
タイミングがちょうど重なっただけ…。
そんな風に頭の中がぐるぐるしてると、ウチの出る1000mの収集がかかる。
高木っちが集合場所に行く直前
「1位取ってきてよねっ」
って強めに肩を叩いたら、何故か自信満々の顔して
当たり前だろって笑ってた。
ズブの素人が何言っちゃってんのって思ったけど
そんな高木っちの態度にウチの緊張もだいぶ解れた。
「お前もな。しっかりやってこい。」
最後に頭の上に置かれた手のぬくもりが今も思い出せる。
実際、高木っちは結構高く設定された位置でも難なく跳び超えてしまっていて、何だか陸上部の子が可哀想に思えてくる。
昨日初めて何の種目に出るか知った癖に、様になりすぎてるから凄い。
集合場所に向かって歩いている最中、高木っちの番がきた。
これを跳んだら決勝に進出という大事な一本…。
さっきより一段と高くなった棒に、さすがの高木っちもある程度は助走をつけるようだった。
緩やかな曲線を描きながら足を踏み出す。
歩幅は大きくて、長い手足。やっぱり格好いいなぁって見惚れちゃう。
でも、高木っちの踏み切り方はさっきのはさみ跳びとは違って
踏み込んだ左足はバーよりも少し外側を向いている
…え、これって―――
トン…っと下に響く音
勢いよく上方に浮く身体に、バーの上を掠りもしない細い腰。
時間が止まったように、その場から動けなくなる。
まるで、壊れた映写機のように、何度も何度も同じ映像が頭の中に再生される。
これ、背面跳びってやつ…。
高木っちってば何者なの?
やった事ないなんてウソでしょ…?
あんな完璧なフォーム…かどうかはわからないけど人に魅せるには最高のフォームで
バーを揺らすことなくマットに倒れ込んだ高木っちにきゃーと女の子たちの歓声が聞こえる。
あんなの……ずるいよ。
もっともっと好きになっちゃった…。
その時、すぐ隣からも「わ…」と小さな声が聞こえた。
もしかして、この人も高木っちの神プレイを見てたんだろうか
だったら一緒に盛り上がろう!と
いつの間にか湧き出る笑顔を隠すことなく、振り向く。
「ねえ、さっきの高木っちの背面跳びみた………ぁ…?!」
「うん、見た。すごく格好良かった。」
なんて、一瞬にして熱く握った拳がとける。
笑顔はサーーっと引いていく
「それでは点呼を取りますー!」
前で体育委員が名簿を順に読み上げる。
「教師チームより 氏原先生~!」
「はーい」
こんな暑い日なのに相変わらず長袖のジャージで
汗ひとつかいてないこの男。
最近はあまり保健室に行かなくなったからか久しぶりに見る気がしたけど
「えへへ、頑張ろうね、渡辺さん。」
みんなが氏原ちゃんの笑顔は和むとか
可愛いとか優しいとか言ってるのなんて嘘だ。
だってこんなに笑顔で手振ってくれてるのに
背景に龍とか蛇とか見えそうなオーラ放ってるもん。
2人して思ったことは同じだろう。
こいつにだけは、負けない、と。
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