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氏原side‥₂
熱めの湯をためたバスタブに首まで漬かれば
変に動きを早めた心臓も、幾分か落ち着きを取り戻した。
それでも疑問は晴れないままで、むしろ認めたくない
憶測が確信に近づいていくばかりで
大きく頭を振った。
浴槽が大きく音を立てて揺れる。
はぁ…と深く息をついて、そろそろ出ようと
フチに手を掛けた瞬間、ガチャンと大きな音を立てて
凄まじい勢いで浴室の扉が開いた。
「っ、幸人無事か?!」
「ひえっ?!」
え、待って。
うそうそうそ。
咄嗟に桶に目一杯湯を掬い、康明の顔めがけて一気に
ぶっかけてしまうがこれくらいは仕方の無い事だろう。
康明は「うわっ」と小さく声を上げるとその場にうずくまる。
その間に浴槽の深くまですくみ、胸元の傷を康明の視界に入らないよう体勢を変えた。
康明の表情を見る限り、バレてはない…と、思うけど…
「…………こ、康明のえっち。」
いつかも言ったことがある様な台詞を康明に浴びせる。
康明はこちらを見ると少しだけ顔を赤くして、また俯いた。
どうして今、康明がここに居るのか
なぜ僕の家に居て、なぜ真っ青な顔して風呂場に乗り込んできたのか
その後の若干の赤面は……今は置いておくとして。
とにかく状況を把握できていない僕は、浴槽に深くまで
浸かった状態で康明に顔を上げるよう促す。
「わ、悪い…。その、返事ねえし、電話も繋がらねえし…
んで、家来たら鍵開いてて部屋荒れてて……。その、
無事なら、よかった…。」
どうやらかなりの心配をさせてしまったらしい。
頭から盛大にお湯を被ったせいで、全身びしょ濡れの康明がこちらを見て力無く笑う。
前髪をかき上げてよく見えるようになった彼の顔は
大人の色気を帯びながらも優しく、頬から顎にかけて滴る雫はまるで異世界の王子を匂わせるほどの美しさだった。
あの時と違う、いつもの光を帯びた彼の瞳に
ほっと胸を撫で下ろした。
「…あー…心配かけてごめんね。」
「いや。俺こそ…押し掛けて悪かった…。」
康明の顔をよく見ると、頬や鼻の先はポロポロと皮が捲れていて、日焼けして真っ赤になっている部位もあった。
1日中日の光を浴びたら、色白の康明のお肌は大ダメージを受けていたんだろう。
康明に限ってわざわざ日焼け止めを塗るようなタイプでもない。
「康明もお風呂入って!びしょ濡れのままじゃ
風邪引いちゃうよ。僕もう出るし。」
「…悪いな。」
珍しく潮らしい康明を不思議に思いつつ
僕はそれとなくタオルで傷痕を隠し、康明の横を通り過ぎた。
髪から雫を滴らせる康明。せっかくの仕事の休みに
風邪を引いてしまっては困る。いや、まあ熱出した康明も
ものすごく可愛かったけどさ…………
って、そうじゃないでしょ。
浴室の外の少しばかり冷たい空気を大きく吸って
もう一度康明に振り返った。
「日焼けに良い化粧水、あとで塗ってあげるから。」
「?…おう…。」
「何か簡単なもの作っとくから、ゆっくり入って。」
「……………ん、悪いな…。」
ふと、さっき音を立てながらゴミ箱に
吸い込まれて行った弁当の事を思い出す。
康明は、アレを見たんだろうか。
康明の元気が無いのがそのせいならば、嬉しさ半分
悔しさ半分だ。
流しに無造作に置かれた空の弁当箱を、
ちゃんと片しておけば良かったと少し後悔した。
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