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氏原side‥₁
「…朝から甘いもんしか食ってねえ。」
フォークを置いた康明が呟く。
その顔は渋く歪んでいて、でもそれを悟られないよう
澄ました顔を作りこんでいた。
そういえば…
すっかり忘れていたけど
今朝はフレンチトーストを焼いた気がする。
甘いもの、そんなに好きじゃない癖に
こうして付き合ってくれる康明はすごく優しいと思う。
テーブルの上にはケーキが3つ。
僕の前には残りひと口のガトーショコラと
1粒分だけ穴のあいたシャインマスカットのタルト。
康明の前にはチーズケーキ。
ケーキはまだ5つ残っているけど、それは冷蔵庫にしまってあって
おそらく僕の明日の朝ごはんと夜ご飯になる。
康明に言ったら、もう若くないんだから胸やけ起こすぞって笑われてしまったけれど、この歳になって”若くない”
は余計なお世話である他にない。
「あーー、幸人、ギブ。後頼んだ。」
「え、もう?」
「んー、腹いっぱい。」
康明が差し出した食べかけのチーズケーキは、
まだ残り3分の2は残っていて、
やっぱり無理して合わせてくれたのかと
少しだけ申し訳ない気持ちになった。
でもまあこれは、僕がおいしくいただくんだけどね。
勿論、康明が一緒に渡してきたフォークを使って。
ガトーショコラの最後の一口を口の中で転がして
康明からの誕生日プレゼントを
大切に、大切に溶かしていく。
「……何?」
「別に。」
「……めっちゃ見てない?」
「美味そうに食うなと思って。」
頬杖を付いた康明は目を細めて微笑んだ。
それからは僕が食べ終わるまで
じっと僕の方を見ていて
濃厚で豊かな香りが売りのチーズケーキなのに
心臓がドキドキいって
味なんてわかったもんじゃなかったのは秘密。
「…ねむー。」
僕が食べ終わった頃合を見計らって
さも偶然を装うかのようにベッドへ誘う甘い誘惑
あくまで自分から誘うのではなく
僕が強請るのを待つのは
他でもない、この男で。
「…僕も、行っていい?」
「どうぞ?」
抗えない僕に
意地悪に笑うのも
この男の他に居ない。
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