アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
206
-
氏原side‥₅
暫くの沈黙が続いた。
明るい部屋にピザとケーキを残して
立ち上がったのは康明だった。
「…悪いけど、もう帰るわ。
………………頭冷やせよ。」
「……なんで?」
「なんでって…」
「僕は康明が好きだよ?こんなに溢れる気持ちに頭冷やすもくそもないよ!康明だってわかってた筈だよね?
わかってるのに気付かないふりしてキスして抱いて嫉妬して…誕生日、も、祝って……。
意味、わかんないよ…。全部フリなの?
康明にとって僕は何なの?!」
「康明だってそうでしょ、康明はわかってる筈?
さっきから聞いてりゃそんなんばっかり
…勝手に理想像作って俺に押し付けんじゃねえよ!!」
「なっ……そんな事思ってな―」
「ただ俺も…責任は感じてる。お前の気持ち、知らん振りしてたのは本当だ。だから――…っ
……ただの職場の同僚に、戻ろう。」
畳み掛けるように降り注ぐ康明の言葉は
全部、その通りだった。
僕は…理想を押し付けていたの?
扉の向こう側に消えて行く康明の姿を眺めた。
待って、とは
言えなかった。
もしかしたらいつもの意地悪で
戻ってきてくれるんじゃないかって
そこまで期待をして、すぐに消える。
だってそれじゃまた、理想像を押し付けている。
一人になった部屋で、思い出すのは
康明に初めて声を掛けてもらった日
康明が初めて笑ってくれた日
康明が初めて家に入れてくれた日
康明と初めて体を重ねた日
たったの2ヶ月で数え切れない思い出を残し
消えていってしまった人。
僕のせいで、あんなに苦しい顔をさせてしまった
好きなだけなのに
好きになってほしかっただけなのに
テーブルには、つい数分前まで彼がいた事を思わせる
食べかけのピザ
まだ温かいイスに座ると、康明の匂いがふわりと僕を
包み込んだ。
「……………う、っく…………ふ、うぅ…っ………」
途端に溢れる涙を
止める事もできなければ、拭ってくれる人ももういない
汗をかいて艶めくイチゴに真っ直ぐフォークを突き刺す。
柔らかいスポンジを簡単に突き抜け、ガチンと陶器に金属の当たる音がした。
あぁ、明日から
どうやって生きていこう。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
208 / 448