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幸人が眉を歪めても、俺は隣に行ってやる事が
出来なかった。
家を出る瞬間の、幸人の懇願するような目。
あそこで呼び止めていてくれたら、自分の気持ちに少しは素直になれたかもしれないのに…。
いや、ちがうか。
幸人は俺を引き留めなかった。
それが彼を突き放した俺に対する
幸人の答えだ……。
殆ど無意識のうちに自宅に戻ると
玄関で、踏ん張っていた脚の力が抜けた。
服が汚れるだとか、せめて部屋まで行こうだとか
頭では思っていても身体が一つもついて行かない。
その場でズルズルと壁伝いに背中が落ちて
砂埃でざらついたそこに、へたりと座り込んだ。
頭を冷やすのは、幸人じゃなくて俺だった
「…………………うっ………グスッ」
終わってしまった。
終わらせてしまった。
泣いていいのは俺じゃない。
幸人を一人残した俺にそんな資格はない。
とめどなく溢れる涙は、服を濡らし、床を濡らした。
今頃幸人は
独りで何を考えているだろう
幻滅されただろうか
嫌われてしまうだろうか
自分の身勝手な行動によって
幸人はどれだけ俺に振り回され、
どれだけ傷ついただろう
自嘲気味の笑みがこぼれる。
俺だって、本当は
幸人が好きなんだ
幸人に好きだと言ってもらえて
付き合ってほしいと言ってもらえて…
嬉しかったんだ。これ以上ないほど胸が締め付けられた。
俺も好きだよ
そう、言いたかった。
ても、自分の口から出た言葉は、取り返しのつかないものばかりだ。
勇気を出したであろう幸人に浴びせた酷い言葉の数々。
…本当は先輩とどういう関係だったのか
随分仲良くしていたような口ぶりだった
そんな事にも腹を立て、八つ当たりのように口調が強くなっただなんて
惨めで愚かでみっともない。
幸人に好きだと言ってもらえた幸せと
もはや何に対してに妬いたかもわからない嫉妬から、初めて幸人に声を荒げてしまった後悔と
板挟みにされて息が苦しい。
ただの同僚に戻るなんて
幸人以前に、俺が出来る気がしないのに。
………せっかくの誕生日だったのにごめん
素直にお前の手を取れるほど、強くなれなくてごめん
幸人がくれた言葉、笑顔、温もり
全部覚えてるよ。
この先も、忘れることは無い
幸人の心の傷を癒してやれる存在になりたかった。
幸人がもう涙を流さなくて済むような
幸人の居場所になってやりたかった。
フラッシュバックする先輩の壊れていく姿
先輩の顔が幸人と重なる
………………無理だ。俺には。
どこで何が起きているかもわからない
何も信じる事なんてできないこの世の中で
幸人一人すら
守れる自信がない
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