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渡辺side‥₄
階段を一番下まで降りたころには、
息切れが激しくてとても話せるような状態じゃなかった。
でも息を整えることもなく、在室中の保健室の扉を開ける。
「…あ。こころちゃん。いらっしゃい。
今日は人がいるから、込み入った話はまた今度ね。」
にっこりと笑顔でウチに笑いかける”保健室の先生”。
隣には、驚いたようにこちらを見る男子生徒の姿。
ゆきちゃんの笑顔はウチが初めて保健室に出向いたときの彼のものだった。
少なくとも、ここ最近、仲良くなったり
高木っちの話をしていた時の”ゆきちゃん”のものではない。
加えて高木っちの話はするなと遠回しに伝えるような
台詞に、やはり返事はウチが思っていた通りだったんだと悟る。
「あ、あのね…頭痛薬…っ、頭痛薬ほしくて…きた、んだ…。」
「頭痛薬?こころちゃん頭痛いの?そういう風には見えないけど。」
あくまで笑顔を絶やさずに淡々と答えるゆきちゃんに、
少し寒気がした。
「あ、ウチ…じゃなくて、その…連れ?が、なんか…頭、いたいって…」
我ながらへたくそな嘘だと思う。
嘘が苦手なのは自覚していたけど、
考えてみればゆきちゃんは、今週の放課後ずっと
高木っちに補習みてもらうのも知ってるんだから。
でもゆきちゃんは何も言わずに微笑むだけ。
「ね、ねえゆきちゃん…。………すごく、辛そうなの。」
そんなことゆきちゃんに言ったって、
ゆきちゃんだってつらいに決まってるのに。
あーあ、本当、こういう時自分のあほさが憎らしくなる。
でもウチだって、高木っちがあんなにつらそうなところを初めて見て、頼れる人がゆきちゃんしかいなくて、
どうしても譲れない部分があった。
「……はぁ。いいよ。普段あまり薬を飲まない人にはこれで十分効くと思うから。」
ゆきちゃんは、保健室に置かれているものではなく、
自分のバッグから開封済みの小さな箱を取り出した。
ウチは受け取ると、
お礼も適当に数ませて保健室を出ようとした
その時。
「こころちゃんは、誰の味方なの?」
「………え?」
保健室の奥と、出口。
こんなに距離が離れているのに、小さな声で問い掛けた
ゆきちゃんの声は、耳元で囁かれたように頭の奥に響いて
「…早く行ってあげなよ。辛そうなんでしょ。」
ああ、ウチの自己満で
ゆきちゃんを傷つけてしまった
そう思った。
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