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渡辺side‥₅
急いで科学室まで戻ると、
高木っちはちゃんと待っていてくれた。
「お前、鞄あるのにどこに頭痛薬なんて置いてあんだよ。」
「あ、え~と…教室に…いつも置きっぱなしでさ~…?」
「あっそ。」
特に興味もなさそうに高木っちが返事をして、
ばれなくてよかったと少しホっとした。
手を出す高木っちに、錠剤だけを渡すのもなんだか衛生上よくないような気がして箱ごと渡す。
中のシートを取り出すと、中身は1錠ぶんだけ抜き取られていた。
その瞬間、高木っちが固まった。
「………なあ、お前。本当どこ行ってたんだよ。」
聞き取れないほどの小さな声に、ん?と聞き返すけど
高木っちはそれ以上何も言わずに、
しばらくその箱を眺めると、水道水で一気に薬をあおった。
「高木っち、まだ仕事残ってる?
……早く帰って、ゆっくり休みなよ…?」
向かい合わせにされていた机をもとの位置に戻しながら、その場からなかなか動かない高木っちに声をかける。
「俺は今日中にやらなきゃいけねー仕事があんだよ。
暗くならないうちに早く帰れ。」
高木っちはその場から動かないままウチに告げた。
こちらを見向きもせず、
まるで感情を抑え込むようにして。
心配ではあるものの、高木っちはこれが仕事だし、
やらないといけないことがあるのなら無理に
それをやめさせるほどの権利は生徒のウチにはない。
仕方なく、自分のバッグをつかんで帰り支度を始めると、
高木っちはシートを箱に戻し、
ウチの前に雑に置いた。
「……お前性格わりーんだよ。
知ってんだろ。なんであいつに頼み込みに行ったんだよ。
これ返しとけ。で今後一切余計な真似すんじゃねえ。」
ドスのきいた声に、本気で怒っている真っ黒な瞳。
ウチが何も言葉を返せないでいると、
高木っちは自分の筆記具を持ち、
どこかに行ってしまった。
階段を下りていく音が、
誰もいなくなった化学室に響く。
この薬なら、特別薬剤師さんに言わなくても
手に入るような市販のものだから
ゆきちゃんに貰いに行ったなんて気が付かないはずだと
思ったのに。
ゆきちゃんの言葉を思い出してハッとする。
”普段あまり薬を飲まない人にはこれで十分効くと思うから。”
夏休み、高木っちの調子が悪いと言って解熱鎮痛薬を
買っていったゆきちゃん。
それは確か、これと同じものだった。
………もしかして。
あぁ、また失敗しちゃったのか。
ゆきちゃんも、高木っちも
どちらのことも大好きなのに…
ウチの考えが浅はかすぎたせいだ。
頬を伝う涙に気付いたころにはもう遅くて
両手で口を押え、誰かに聞かれないよう、声を抑えながら泣きつづけた。
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