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氏原side‥₁
「高木くん振ったの?」
昼過ぎの喫煙所。
一人、タバコを吸いながら黄昏ているところに
勢いよく入って来たのはナルだった。
僕は聞こえないふりを決めこんでタバコをもう一口吸い込む。
吸い込むときは癖のないメンソールなのに、煙を吐いたときの、鼻に抜ける香りが
康明を思い起こさせる。
「ちょっとちょっと。無視するのやめてくれない?」
「っるさいなあ。逆なんだけど。」
「逆?それどういう――…」
「僕が振られたの。」
「…はぁ?」
ナルはわけわかんないとでも言いたそうな顔をして何も言わなくなった。
いや、僕だってわけわかんないし。
そのお陰でこっちは休む間もなく忙しくしないと
所かまわず腕でも切りたい勢いなんだよ。
「もういいでしょ?僕戻る。」
乱暴に火を押しつぶし、灰皿の奥に沈ませる。
扉に手をかけようとしたとき、その手を遮られた。
「何を考えてるのか知らないけど
高木君どこからどう見ても幸人のこと大好きなの丸出しじゃない。」
「は?さっきから本当何言ってんの。」
「あんた、見てないの?高木君のこと。」
「………見てない。一切。」
僕はあれから、康明をなるべく見ないように、見ないように気を付けてきた。
視界に入れてしまうと、どんなに平気なフリすることに集中しても康明のことを考えずにはいられなくなってしまうから。
とはいうものの、康明の姿なんて彼が保健室に来てくれない限りは、朝の会議でほんの数分見るだけだったんだと知った。
康明から来てくれなければ、自分は康明との共通点すらないただの養護教諭なんだから。
「見てないなら教えてあげるわよ。
月曜から死んだ魚みたいな目して幸人が通り過ぎるたび目で追ってるわ、誰かと話してるとその相手の事馬鹿みたいに睨んでるわでもう恐ろしいったらありゃしない。
日に日にクマもひどくなって、顔色も悪いしあまり睡眠もとれてないんじゃないかしら?」
「……へ、康明が……?」
「そうよ。それにあんたといるところをこの一週間めっきりみないから、あんんたに告白して振られたんじゃないかと思ってたけど…
……そう、逆だったのね。」
ナルから聞いたことはどれも信じられないもので。
月曜日の放課後に心ちゃんが僕のところに頭痛薬をもらいに来た時、心ちゃんの反応から欲しがっているのは康明なんだろうとは思ったけど。
まさかそこまで体調がよくないとは思ってなかった。
康明、どうしたんだろうか。
急に胸騒ぎがした。
心配で、でも僕は康明のもとに行ける理由を持ち合わせていなくて
無力な自分に、あきれる。
「まあ、それが高木君の望んだことなんだから仕方ないわね。
いつまでも過去を引きずってるってことでしょう。
そんな彼を変えてあげられるのはあんただけだと思ったんだけどね。幸人。」
真っすぐに僕を見つめるナルの目が怖くて
僕は何も言わずに喫煙所を後にした。
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