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何とか誰にも見られることなくRickyを体育館のステージ裏まで連れ込むと、2人揃ってほっと息をついた。
因みに俺がRickyと知り合いであることは校長や文化祭担当の教諭にのみ話を通してあり、Rickyのプライバシー保護のためにも今回のコソコソした行動は全て了承済みである。
「よし。それじゃあ段取りを教えろ。」
「ったく…命令口調どうにかしろよ。」
「それが俺なんだから仕方ない。」
「………その通りだわ。」
本気でブレねえ。
昔から一つも変わってねえわ、こいつ。
俺はマイクの高さと立ち位置だけ確認させると、舞台袖に隠れてRickyを見守る役に徹する。
他の教師がRickyの顔を見せないという活動方針に理解があってよかったと思う。今、この場に居るのは俺とこいつの2人だけだ。
他の教師や生徒やらは皆、ステージの前でじっとその時を待っていた。
俺の役目は万が一機材トラブルが起きたときの対応と、Rickyの身体に何かあった時のサポートだ。
そして間もなく開始される旨を放送が伝えると、幕の向こう側からはひときわ大きな歓声が上がり、Rickyの偉大さに驚く。
今回の出演は完全に幕を下ろした状態で行うという条件のもと承諾したようで、Rickyの姿を見ることは叶わないというのに、これだけ大きな声を浴びると言う事はそれほど生徒たちの中でRickyという存在が大きいからだろう。
「すげえな、お前。」
袖でそっと呟くと、こんなに大きな声を受けているにもかかわらず、相変わらずの余裕の笑みを浮かべた男はドヤ顔で言い放つ。
「当たり前だろう。俺を誰だと思ってるんだ?」
昔から歌がうまかった。
何度かカラオケに一緒に行ったが、そのたびに90点越えは当たり前。
ただでさえ皆より優れていたのに、Rickyは努力を惜しまなかった。
だからだろうか。
間近で聞くこいつの歌声はすごく丁寧で繊細で
わざと掠れさせた高音も、
深くまで響く低音も
そのすべてが心地良く耳に居座って
人の歌声を聴いて泣きそうになったのは初めてかもしれない。
それくらい、Rickyはいつの間にか俺ですら手の届かない存在になっていて
マイクを掴む仕草も一つ一つの動きも、息継ぎで漏れる声すらも曲の中の一つの楽器となって”Ricky”を作り上げていた。
この光景を、誰とも共有できない俺の立場を少しだけ残念に思った。
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