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宴会も終盤に差し掛かり、酒のまわった年配の教師たちが大声で説教をしだしたり、睡魔に勝てなかった教師たちはぐったりとその背を壁にもたれかかったり。
ラストオーダーを取りに来た店員に適当に飲み物を頼み終えると、こっそりと繋いでいた幸人の手が俺の手を引っ張った。
「ちょっと席外すね。」
「………トイレ?」
「言わないようにしたんだから察してよ。ばか。」
「…最近すぐばかって言うよな。」
「口癖。ほら、通して。」
もしここが自宅や2人きりになれる場所であるなら全力で引き留めて幸人の反応を楽しむところだが、あいにく事故が起きてはかなりマズい場所であることは承知しているので、足をひっこめて幸人の通る道を作ってやる。
幸人の姿が見えなくなると、次いでやってくるのは酒も飲まずして他の酔っ払いと同じテンションで会話を楽しんでいた一人の女教師だ。
「最近どう?うまくやってるの?」
「ナル先生…。別に普通です。」
ナル先生はもう一度幸人が帰ってくる気配がないことを確認すると、俺との距離を更に詰めてきて、声は小さくなる。
俺と幸人の関係を他の誰かに知られてしまうのはよろしくないからだろう。
「幸人が鍵貰ったって飛び跳ねて喜んでたけど~?」
「……あいつそんな事も言ったのかよ…。」
「私に言いながら感極まって泣きそうになってるんだもの。高木君の前では大泣きしてたでしょう?」
「あー、まあ…。」
可笑しそうな口調で言っていたけれど、その表情は本当に嬉しそうで、どうしてこの人がこんなに喜ぶことなんだろうと不思議に思う。
幼馴染だという話は聞いたけれど、だからといってただの惚気話をここまで素直に喜べるやつも少ないだろう。
他に何か、もっと別の理由があるんだろうか。
「あの子がまさか人前でうれし涙を流せる日が来るとはね。」
「…?どういう事ですか?」
俺の知っている幸人は感受性豊かで、すぐに泣くしすぐに笑うし、それが珍しい事だとも思っていない。
それでもナル先生は感動したわ~とハンカチで目元を拭っている。
もちろん涙なんて1滴も零れていないけど。
「高木君はちゃんと幸人の事が好き?」
「…まあ…。」
「なら、それを自信を持って言える?」
「…………それは。」
正直、まだだ。
俺にはまだ、実質何一つ解決していない問題がある。
自分の気持ちに素直になったというだけ。
包み隠さず言えば、今のこの状態は”甘え”に過ぎない。
トラウマとなり、今も心の奥に居座り続けているもの。
「これ、私からのクリスマスプレゼント。
…少し早いけど行動に移す頃にはクリスマスは過ぎていると思うから。」
「…なんすか?これ。」
手渡されたのは小さな紙切れ。
そこには手書きでどこかの住所と部屋番号と思われる3ケタの数字が書かれていた。
「―――そこに幸音がいる。」
「…………え?」
俺の思考回路は、完全に停止する。
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