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氏原side‥₂
翌朝、いつも通り自分の分と康明の分の弁当を作る。
今日は弁当箱一面が黄色で覆われている。
康明が好きだと言ってくれたオムライスだ。
上に垂らされているケチャップは、柄でも文字でもなくシンプルに波を描いただけもの。
初めは、ここに文字でも書いて問いただしてやろうと思ったが、結局そんな勇気はなかった。
ナルからは昨日の夜遅く、ちゃんと約束通り折り返しの電話が来た。
けれど、僕がいくら何を言ったのかと問い詰めても
「高木君に聞いたらいいじゃない。」
とそればかり。
そこまで行くと2人とも頑固で、
「言え」「言わない」「答えろ」「答えない」
の繰り返しで、気付けば空が白んでいた。
さすがに疲れて、仕方なく折れたのは僕の方だった。
折れたなんて言い方は多分間違っていて、”持ち越し”が正しいんだけど。
そこからほんの1時間程横になったが、不安要素が取り除かれない限り、どうしても寝付くことが出来なくて
遂に眠ることを諦めた僕は一睡もする事無くこのオムライス作りに励んだのだった。
いつもより1時間は早いだろうけど、支度を終えてやることもなく、康明の朝食でも作りに行こうと家を出る。
朝と夜はだいぶ冷え込む季節になった。
少し前まではじっと座っているだけでも汗をかくくらい暑かったというのに。
そんな事を考えながら、オムライスと仕事用の鞄を持って康明の家の鍵を開けると
「…おー、幸人。早いな。」
キッチンで一人、タバコを吹かしている康明が居た。
いつもなら、この時間に起きていることなんてありえないのに。
寝起きの悪い康明が、この時間にここまで意識がはっきりしているのなんて見たことがない。
「…康明、もしかして寝てないの?」
「…クマとかある?」
「いや、あんまりわからないけど…。」
「…そっか。」
やっぱり、寝てないんだ。
それも、ナルと話していた”何か”が関係しているんだろうか。
康明は一体何を考えて、何のせいで眠れなくてこの夜を明かしたんだろう。
わからない。
わからなくて苦しい。
康明、僕に教えてよ。
なんて、康明の答えに見当もつかないこの状況では
断られるのが怖くて、言う事なんてできっこない。
人の顔色をうかがって世を渡り歩いてきた僕は
恋人に、たかが質問の一つも出来ないんだ。
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