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氏原side‥₁
何も言えないまま、何も聞けないまま1か月が過ぎた。
何かがおかしいというだけで、
何がおかしいのかはわからない。
少なからず違和感を覚えながらも、
何かが変わったのかと聞かれればそうでもない。
授業の空き時間に保健室へ来てくれるのも、
美味しかったと言って空の弁当箱を返してくれるのも、いつもと同じ。
ふと思う時があった。
すれ違っていると思っていたのは
僕の思い過ごしなのかもしれない、と。
でもそうじゃない。
恐ろしい程に、毎日同じことの繰り返しの中、
行動の変化はなくとも、あまり目が合う事はなく
意地悪な笑みも、
優しい笑みも、
僕の前で沢山見せてくれた康明の笑顔は極端に減った。
僕を抱きしめながらそっと息を詰めるのも、
好きだと伝えるたびに微かに辛そうな顔をする瞬間も、
決して見逃す事はなくて。
付き合いだしたあの日から、数少ないながらも囁いてくれた
”好き”
の言葉が、いつしかまた消えていることに気が付いたのも最近だ。
何がいけなかっただろう。
嫌われてしまったのだろうか。
それとも飽きられてしまったのか。
わからない、わかりたくない。
怖い。気付きたくない。
そばに居たい。
この先も、ずっと、未来永劫そばに居させてほしい。
僕の存在意義を見出してくれた康明に捨てられたら
僕は一体どうなってしまうんだろう?
考えるだけで体が震えた。
だめだよ、康明。
僕は貴方が居なきゃ生きていけないんだから。
そう簡単に、僕を置き去りにすることは許さない。
…なんて、正直に言葉にして伝えられたらどんなに楽だろう。
冷え込んだ暗い部屋で一人、そんな事を考えて小さく笑う。
行動に移す気もないのに、一丁前に伝えたい台詞ばかりが頭の中に浮かび上がる。
言えるわけ、ないでしょ。
こんな汚い僕の気持ちを知られたら、呆れられるに決まってる。
それとも馬鹿にされる?
それとも―――
…僕を嫌って何処かにいってしまう?
この思いを全部、全部伝えたい。
でもそれは意気地なしの僕には不可能だ。
息苦しい程胸が痛い。
康明との関係にピリオドが打たれる瞬間が迫っている気がして、なのに一歩も動けない。
康明、今僕は
うまく演技が出来ていますか?
涙をのみ込み、いつも通りの笑顔を送る僕を
お願いだから、捨てないで。
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