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氏原side‥₃
「ねぇ、康明…。」
「ん?」
ナルと何の話してたの?
僕には教えたくない話?
康明がずっと元気無いの気付いてるよ。
様子がおかしいのも、何をしていても上の空なのも。
言いたいことは山ほどあるのに、いざ康明の顔を見ると言葉に詰まる。
「…幸人?」
「や、何でもない。…最近は眠れてる?」
名前を呼んだまま次の言葉を続けない僕。
それを疑問に思って顔を覗き込む康明。
言い表せない居心地の悪さが僕らを囲い、慌てて言葉を考えた。
久しぶりに、目が合ったなぁなんてのんきな事を考えながら、
今まではこんな微妙な空気になる事もなかったよなと思いながら。
先に火を潰した康明が、寝室に向かって足を進める。
僕はそれを引き留める事も出来なければ
何となく追いかける事しか出来ない。
僕も一緒に寝たいな。
あ、でも明日は仕事も休みだし、もう少し起きていようよ。
康明と話していると心が落ち着くんだよ。
康明、今日は抱きしめてほしい。
それ以上はいらないから、ただ、康明の温もりを隣で感じたいんだ。
それらをぐっと飲み込み、僕は康明に誘導されて動く。
康明が先に潜り込んだベッドを、ぽんぽんと軽く叩くから僕もその中に入った。
康明が反対方向を向くから、僕はその背中にそっと手を置いた。
手のひらから感じる康明の温かな体温を、いつまでも忘れないように。
重力に逆らわず、僕の顔を横向きに流れていく涙は
反対を向いている康明にはわからない。
呼吸さえ整えておけば、康明は僕が眠ったと思ってくれるだろう。
声を押し殺したまま、静かに泣き続ける僕を
康明に、知られるわけにはいかない。
僕は強く居ないと。
康明の負担にならない様に、笑顔で居ないと。
康明の前でだけはせめて、そんな僕で居なくては。
浅すぎる眠りの中、ある夢を見た。
綺麗なイルミネーションをバックに、終わりを告げる康明の言葉。
僕一人を残し、暗い闇の中に消えていく恋人。
1週間後の日曜日、それが本当になる気がして
一夜のうちに幾度となく開く目は、いつも冷たく濡れていた。
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