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最悪な一日③
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零れて出てくるのは、弱々しく否定する声だけ。
「……違う」
「違う?じゃあ都築くんを殴ってホテルに連れ込んでいたのは誰?知らない人?だったらレイプだよねそれ」
「………うるせえ」
ぐっと拳を握り締める。
強く握りすぎて、指先が白んでいるのが見えた。その先には上履きの爪先が見えて。
どこか異質なこの空間では、馴染みのある物も無機質で得体の知れない物にさえ見える。
「……教えて、君のことが知りたいんだ」
ゆらりと一歩近づいてくる。
一歩後退すると、踵が壁にぶつかりよろめいた。
逃げ場はあるか、視線をあちこちに巡らせるが『無駄だよ』とだけ一蹴された。
「教えてどうすんだ?弱み握って何かするつもりかよ、お前と違って出来損ないの俺なのに?」
「……知りたい?」
壁に両手をつかれて、触れ合いそうなほどの距離までに整った真堂の顔が迫った。
思わず息を止め、揺れる二つの瞳をじっと見据えた。
「僕と付き合ってよ」
それは、あまりに予想だにしない言葉だった。
金銭の要求だったり、はたまた委員長という立場を利用して、俺を上手いこと使おうと企んでいるのではないかとあらゆることを考えていたが、予想外過ぎるこの状況に呆然とするしか無かった。
「……馬鹿にしてんじゃねえぞ」
「馬鹿にしてないよ、それともみんなにばらされたい?怖がられている不良の君が、実は男相手に身体売ってる、って」
這うように身体をまさぐる真堂の手に気付いた時にはもう遅かった。
ワイシャツのボタンを器用に外し、チュッと音を立てながら首元や鎖骨にキスが落とされていく。
「ぃ、いや、やめろっ……」
「どうする?決めてよ。僕と付き合うか、ますます避けられてひとりぼっちの生活を送るか」
これはただの脅迫だ。
きっと、昨日のあの場面を見た真堂は俺のことを心の底では馬鹿にしていて、興味本位で冗談を言っているだけ。
そうだ、そうに違いない。
それなのに──
「っひ……?!」
「ここ、男に触られても反応するんだね…可愛い」
なかなかその手が休まることは無い。
いつの間にやらワイシャツは粗雑にはだけていて、性器を布越しにやんわりと握られる。
乳首を指先で捏ねられたり摘まれたり、柔な快感に腰が微弱に揺れてしまうのを、真堂は見逃さなかった。
「感じてる?」
「ほ、本当に……やだっ……!」
「嫌?そっか、じゃあ……」
ふとズボンから携帯を取り出し、つまらなそうに画面をタップしてから、押し付けんばかりに眼前にそれを見せてきた。
そこには昨日のホテル街で若い男と口喧嘩をした後に殴られ、ホテルに連れ込まれた俺の映像が淡々と流れていた。
「な、んでこれ……」
「僕が撮った」
あまりの絶望に、全身の力が抜けそうであった。
愕然としていると、首から顎先までをべろりと舐め上げて再び快感の渦に落とそうとしてくる真堂がいた。
「さぁ、決めて。早く」
そこにはもう、優等生などという真堂の姿は無かった。
妖しく光る瞳には惑う俺の姿が映っていて。
どう転んでも地獄だ。
それでも、人間というのは恐ろしい。本能的にどちらがより生きていけるかをすぐさま判断できるのだから。
そんな上手く出来た思考回路を恨みながら、頬に一筋の涙が伝った。
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