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エンペラーこと『皇帝』は、全てにおいての決定権を持つ。
ゆえに僕みたいな若輩者の意見など、雑音に等しく思われているだろう。
今朝、設計図をハーミットへ転送したところ、昼前には解析が終わったらしい。
設計図は僕らでも分かるような二枚の図面となり、今はリビングのテーブルの上に広げられていた。
家にレンと帰って早々、今夜実行だと言われた時は引っ繰り返るかと思った。
上が焦り出したのは聞いていたけれど、仕事ってこんなバタバタするようなもんじゃないと思うんだけどな~。
「十分で頭に叩き込め」
「えっー!」
レンが顔をしかめて、悲鳴を上げた。
昼間見た紙のサイズが二枚分、十分で記憶しなきゃいけないのか…。
レンでなくても悲鳴を上げる。
僕達はすでに黒尽くめの仕事着に着替え終え、武器も地下室から取って来た。
後は地図を記憶し、出掛けるだけ。
時刻は日付が変わろうとしている。
「う~。記憶するの、苦手なのに」
でも双子の姉、アイは瞬間記憶能力を持っている。
この双子って本当に一人だったら完璧な人間だったろうな。
まあどこか欠けているからこそ、可愛くて愛おしいんだけど。
「―そろそろ時間だ」
そう言ってイザヤは顎で玄関をさす。
「ううっ。忘れないようにしないと…」
レンが頭を抱えるほど、複雑な構造になっている。
本当は狙撃できれば一番楽なんだけど、それが難しいので侵入と言う方法を使うしかない。
「でも実行部隊に僕らまで呼ばれるとは思いませんでしたよ」
イザヤは運転席に乗り込み、僕とレンは後部座席に乗った。
「今夜動けるのはお前達ぐらいだからな。チャリオット達は別件で動けないみたいだ」
……だから突発的な仕事ってイヤなんだ。
急に実行部隊を編制しようとしても、いろいろな事情で動けない幹部は必ず出てくる。
そしてそういう時は、本来なら情報収集で仕事が終わるはずだった僕らまで動かされる。
疲れてても容赦なく働かされるから、幹部って本当に大変な役職だぁ。
「その代わり仕事が終われば、この街から離れられる。学校にも行く必要がないからな」
「う~。それなら頑張るけど」
レンは渋々ながらも、やる気が出たみたいだ。
でも僕はちょっと残念な気持ちがあった。
あんなふうに昼間、学校へ通うことなんて久しぶりだったから…。
楽しい気持ちがあったのは否定できない。
眼を閉じれば、陽の光の下で笑う学生達の姿が浮かぶ。
「マジシャン、どうかした? 疲れてる?」
隣に座るレンが、心配そうに僕の顔を見上げていた。
「…いや、地図を思い返していたんだよ。ラバー」
仕事となれば、役名で呼び合うのが僕達だ。
感傷に浸っている暇はないな。
何せバックミラー越しに、イザヤが睨んでいる。
……本当に僕の嘘を見破るのが上手い人だ。
車は鷹近の実家がある駅に置いた。
すぐに下っ端のトランプが車に乗り込み、走って行く。
あの車は鷹近に何度も見られているし、流石にターゲットの近くに置くわけにもいかない。
僕達は真っ直ぐには向かわず、邸の裏山に向かった。
ここは都心から離れている高級住宅街。
一つ一つの家が大きくて敷地も広いもんだから、移動距離が長いのが大変だ。
設計図を見ると、侵入できそうなのは裏山にある防空壕からだ。
そこへ向かうとすでに数人のトランプ達がいて、封鎖されていた防空壕を開けていてくれた。
彼らの役目はここまで。
侵入は僕達三人だけで行う。
それぞれ小型の懐中電灯を持って、中に入る。
防空壕の一番奥は、大きな丸い空間となっていた。
イザヤは手袋をした手で、壁をなぞっていく。
確か設計図に書かれていたのは防空壕の壁の一部にスイッチがあり、それを押すと邸の庭へ行ける道が開けるらしい。
ふとイザヤは立ち止まり、壁をぐっと押した。
カチッ ゴゴゴッ…!
「うわっ」
「すごっ!」
僕とレンは眼を見開き、驚いた。
壁だと思っていた大きな膨らみが、真横にズレ出したのだから。
しばらくすると人が通れるほどの穴がぽっかり開いた。
…スゴイ仕掛けだなぁ。
「行くぞ」
「はいはい」
「わっ、待ってよ」
湿った土道をイザヤ、僕、レンの順で歩く。
十分ほど歩き続けたら、眼の前に鉄の扉が現れた。
先頭を歩くイザヤは躊躇いなく扉を開けると、月の光が差し込んでくる。
「ここは…井戸の底でしょうか?」
「だな」
僕の問いかけに、イザヤは頷いた。
実際は井戸のような造りだが水は無く、底は秘密の抜け道に通じている。
井戸の壁には階段ハシゴがあり、僕達はそれを使って地上へ出た。
そこはすでに邸の敷地内。
複数の警備員の気配がする。
携帯電話で時刻を確認すると、ほぼ予定通り。
監視カメラの方はコンピュータが得意な幹部が何とかしてくれるから、自由に動き回れる。
「それでは手筈通りに」
「分かりました」
「んじゃ、行ってくる」
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