アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
4.
-
ご主人様がテレビの電源を切る。
先程まで視聴していた番組はあまり面白い内容ではなかったようだ。心なしか、ご主人様の表情も曇っていた。
ご主人様は眠りにつくつもりなのか、寝室に移動すると布団の中に潜り込んだ。あとを追うように俺もご主人様の隣に潜り込み添い寝の体勢を取る。寝床に入っていたご主人様が隣にいる俺を見て、微笑む。
「さっき見ていた番組で」
一呼吸置いてから、ご主人様が口を開く。
「アンドロイドと暮らす人達について話していた」
「俺とご主人様のような?」
「ああ。……だけど」
番組内で取り扱われていた内容は自分達にとってあまり肯定的な意見ではなかったようだ。
寧ろ、否定的な意見や見解に片寄っていたようだった。俺と一緒に暮らしているご主人様には受け容れ難い内容だったらしく、少し気落ちした様子でご主人様が苦々しげに呟く。
「……幸せになることを誰にも望んでもらえなかった人間は人以外から幸せになることを望まれるしかないのに」
ふと自分の中に備わっていた人間心理の分野に関する知識を思い出す。
人間は誰かから好まれることを自然と欲するのだそうだ。
人間が望む人に望まれたいと思い、愛され好かれるのを願うことはある種の欲求であり、その欲求が満たされている人間は幸せなのでそれ以外のことを考えて生活するが満たされなかった者はそうはいかないのかもしれない。
俺のご主人様は望む人に望まれたいという欲求があっても、それが叶わなかった人だった。
誰かの代わりにアンドロイドを愛する人は自らの手で幸せになろうとした人でもあるのだろう。
そのような人間がいる限り、俺たちセクサロイドが作られたことも必然であるのかもしれない。
この世は寂しくて恐ろしい場所だから。
****
甘い夢を見て何が悪いというのだろう。
俺が一人きりで、この目の前の機械と甘い夢を見ることをいったい誰が咎められよう。
今まで生きてきた中でもっとも甘い記憶を淡い感情を何度も与えてくれたのだ。
生きた人間でないからこそ己の望む形で愛情を示してくれる。
アンドロイドと共に暮らすようになった人達の間で言われていたが
『一度その喜びを知ってしまうと人と歩む意味を失ってしまう』とはよく言ったものだ。
今更、知る前には戻れなかった。
裏切らず、人ではないために己の人生を持たない存在。
それが俺にとってどれほどの救いとなっただろう。
裁かれることも無ければ、故意に貶められ裏切られることも無い相手。
見下されることも、何かを壊されることも、未熟であることを責められたり、咎められるわけでもない。
不当に下げられたり誰かと比較されることもなければ、誰かの正しさを証明するために存在しているかのように扱われたりもしない。
俺のことを馬鹿にすることもなければ、俺に無理を強いることもなく、恨まれることもない。
軽くあしらうような優しい口ぶりで嘲笑うこともない。
目の前の彼だけが俺の味方なのだから。
何より、俺のことを気持ち悪がらないのだ。
それだけで充分だった。
「これからも、俺を幸せにしてくれ」
俺がそう言うと彼はどう返答するべきか考えているようだった。
少し間を置いてから、答えが返ってくる。
「はい」
機械の伴侶を手に入れたことで前を向けるようになった人間の中には、誰にも尊重されないつらさを乗り越えさせてくれる薬のようだと言う者もいる。
縋るにも、人間よりもはるかに都合が良く、優しく、何より気兼ねのいらない相手だからだ。
「なあ」
隣で添い寝している彼を見る。人工的だが確かにそこにある二つの瞳に己の顔が映っていた。
「どうかしましたか?」
「お前にだけは俺の幸せを願っていてほしいんだ」
「幸せ、ですか」
「本当はこんな事は言いたくないけれど……、悲しい気持ちにどれだけ囚われないですむかで人生の質は決まるのかもしれない」
「……そうでしょうか」
「きっとそうだよ」
おやすみとだけ告げて、布団を被り目を閉じた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 6