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始まり
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グラウンドの土煙。部員達の熱気。指に食い込むグリップの感触。…そして、マウンドに立ったときの、あの高揚。
今でも鮮明に思い出せる…。
「お前、やっぱ野球したいんだろ」
高島の声がふいに聞こえる。俺は視線をそちらに向けると、呆れたような顔をしているそいつを見下ろした。
「…したくても、できねえよ」
「うそつけ。もう治ってんだろ、肘」
したくても、…できねえよ。
黙りこくった俺を、高島はやっぱり呆れた顔をして見つめていた。
去年の夏、1年生ながらに強豪野球部のエースだった俺は、オーバーワークで肘を壊した。
肘自体は大したことは無く、3ヶ月程度で回復したが、高校野球の3ヶ月は長く、どんどん自分を追い抜いていく部員達に焦るばかりで、怪我で練習が出来ない自分が辛くて、情けなくて、気づいたら、自ら野球部を去っていた。
高島はこんな俺をもう一度野球部に連れようとしてくれている。
ただ、なんとなく俺にはもう野球が出来ないんじゃないかと思っていた。1度野球部を去ったのだ。
「ま、お前にも色々あるんだろうけどさ、こんな強豪チームが、夏になってもいつまでもエースを立てない理由を少しは考えろよな」
俺が離れてから、エースがいないのは知っていた。…監督までもが俺の復帰を望んでくれているんだと、責任は感じている。
でもどうしても、俺にはできなかった。
「お前がいないと、練習にも試合にもいまいちハリが出ねえんだよ。みんな、寂しがってる。」
最後に高島はそういって、自分の教室に戻って行った。
半年近く、こんなことを毎日やってる。
野球は、俺の全てだった。
「ふーん、お前、なんで野球やらないわけ?」
え。
人気のない廊下で高島とは話していたはずなのに、何故かどっかから声がする。
「…だれ?」
あたりを見回しながら警戒して聞くと、その声の主はひょっこり廊下の窓から顔を覗かせた。
どうやら、廊下の外から聞いていたようだ。
「あっ?誰かと思えば、2年の結城くんじゃん。は、お前って野球部のエースだったわけ?」
何故か俺の事を知っていたその先輩(2年って知ってるってことは先輩だよな?)は、知らなかった…とか、俺としたことが…とか、ぶつぶつひとりでつぶやいている。
つーか、変な訛り…
…外人?でも、相当な整い方してる、顔が。
「なんで、俺の事」
その先輩が俺の問いにちらっと顔を上げると、俺は彼の目から逃れられなくなってしまった。
…なんだよこれ
「結城くん、有名だからさ。ほら、女子達がかっこいーって」
ニヤニヤしながらそう言われる。なんか、ゆうきくんって呼ばれ方が馬鹿にされてるようで、少しムカついた。
「…で、盗み聞きしてたアンタは何もんだよ」
「あー、わりー。そんなつもりなかったんだけど、面白そうだっからつい。俺は3年の宮城カヤ。美術部してる」
美術部…
「で、エースだった結城くんは、怪我が治ってるのにも関わらず仲間の期待を裏切ってまで、どうして野球をやらないのかな?」
なんという嫌な聞き方…。でもなんとなく嫌ではなくて、俺はいままで誰にも言わなかった本心を、その時初めて打ち明けた。
「は?そんだけ?」
くっ…。わかってはいても、結構ダメージあるな、これ。
「わかってますよ…、小さいことで悩んでるってことくらい」
「いや、お前。しょうもな」
くそっ。だんだんむかついてきたぞ。宮城さんは、その整った顔を心底軽蔑したみたいに歪ませた。
まじで、なんだこれ。…俺、初対面の人となにしてんの。
「お前あれだろ。かまってほしーんだろ、それ」
俺、かまってほしいのかな…。て、いやいや。でもなんでだろ、この人と話してると、心乱されるくせに、なんだかすげー落ち着く…。
見透かしたように俺を見上げる宮城さんに見とれてしまって、気づく。
この人、すげー魅力的だ。
そんな彼は、にやりと妖艶な笑みを浮かべると、まだまだ見とれてた俺にその魅力的な声で告げた。
「よし、結城くん今から野球部もどれ。先輩命令だ」
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