アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
「そこは『うん!』だろっ!? それか『もう恋人だと思ってた』とかさぁ!」
行きつけの店で管を巻いている俺はみんなのいい肴になったみたいだ。
俺としては笑い事じゃない。
「お前はアホだねぇ」
カウンターに立つマスターの声には少しだけ俺を労るような色がのっている。
アホでもバカでも何でもいいが、このまま『はいそうですね』と引き下がるわけにはいかない。
アイツというセフレがいたからこそ分かる。恋人とセフレは違う。絶対違う。このままで良い訳がない。天と地の差なんてもんじゃない。次元が違うレベルで違う。
「で、どうして恋人になってくれないのかは聞かなかったのかい?」
「聞けると思うか?」
あんな絶望した顔してる奴にもう一度『恋人』というワードを投げることは出来なかった。
聞くのが怖かったともいう。
セフレに拘っているなら、面倒だなと感じた瞬間いなくなるかもしれない。
「好かれてるってのが勘違いだったんじゃね?」
ダーツ台で遊んでた顔見知りがずけずけと言ってのける。
その可能性は考えた。そりゃあもう一番最初に考えた。勘違いだったのか。自惚れだったのか。
「……お前なら好いてない男とセックスして、そいつの誕生日にはプレゼント寄越して、泊まりの旅行に行くか?」
隣に腰掛けながらつんと澄ました様子で「アンノック16年」と告げた男にそう聞いてみれば、首を動かすことなく視線だけをこちらに向けてきた。それが冷たいものなのは彼の仕様だ。そう分かるくらいの面識はある。白雪姫なんて言うやつもいるけど、ぶっちゃけ氷の女王だろ。
「セックスはしてるし、俺は絶対しないけど普通は貰ったらお返しくらいするだろうし、金が掛からないで行きたいとこ行けるって最高だと思う」
「そういう奴だよお前は」
そんな女王の答えは普通にクズで、こちらも冷やかな視線を送るが、彼は素知らぬ顔でマスターから琥珀色の液体揺らめくグラスを受け取っている。
「時間はあっても金がないのが大学生なんで」
そう言って彼がダーツ台に戻っていくと、カウンター席は再び俺の話題で持ちきりになる。
くそっ……思う存分楽しんでくれ。
手の中のグラスには琥珀色の液体と水晶のような氷が入っているが、一向に減っていかない。
「与えすぎたのかねぇ?」
ワイングラスを磨きながらマスターが揶揄うような声音で言った。
それも考えた。でもな。
「……自分の分は自分で払うんですよアイツ」
「おや?それじゃあ……」
そう。さっきは否定しなかったが、アイツは買い物も旅行代も自分の分は自分で出してる。
マスターの意味あり気な溜めに釣られるように少しの沈黙が俺の周りを包んだ。ダーツ台の盛り上がりが聞こえる。
次の言葉を各々が銘々の気持ちで待つ中、マスターが爽やかな笑顔と共に言った。
「借りを作りたくなかったのかな」
「つまり?」
「お前の勘違いかもしれないね」
「はぁ~~~」
盛大な溜息を吐きながらカウンターに突っ伏した俺を見て、周りの温度は上がっていく。そんな様子を見てマスターはクスクスと笑った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 2