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第一章 最悪の始まり
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此処は、日本の中でも別世界だ。
高い塀に、監獄の様な誰も出れない高度なセキュリティ。そして、善の心の欠片も無い監視。
あの日に、人間に害を及ぼした最悪の事件から、被害者は此処に入れられている。
「また来たんだね、朔君。今日もNo.9に会いに来た感じ?」
僕は、塀の内側に入る為に入り口の警備をしているチャラい男に話しかける。
「違う。壮はNo.9何ていう名前じゃない。それに、お前にとっても無駄話は必要無い筈。お前も、アイツらと同じでしょ?だったら早く壮に会わせて」
「朔君、何か勘違いしてない?俺は只の此処の警備のお兄さん。あの方達とは何にも関係無いよ。それに、あの方達は君が考えている様な事はしていない」
関係無い訳が無い。【あの方】こんな呼び方をしている位だ。こいつが、あのクズ人間達と繋がりが多少はある事を示している。
僕は、見え見えな嘘を吐かれた事に苛立ちを隠す事無く、早くやるべき事をしろとでも言うように促す。
「早くして、壮に会うために来たんだから」
「分かってるって。本当に朔君は可愛いげが無いなぁ。顔は凄く可愛いのに」
「お前に可愛いとか言われても嬉しくないから。そこら辺、覚えておいて」
チャラ男は、へいへいと返事をして僕のパスを通し始める。
「はい、出来たよ。ちゃんと【例の時間】より前には帰って来てね。それじゃあ、愛しの彼氏の所に行ってらっしゃい」
「パス、ありがとう。余計な一言に関しては、うるさいから二度と言わないで」
酷いなぁ。何ていう言葉が聞こえたが無視をする。こんな所で道草を食っている場合では無い。
ギシギシと音を発てて開く門の前。この憎い門をくぐって、僕は壮を救わなければならない。
塀の内側に入ると、外と何ら変わらない風景が広がる。高い塀で見えないが、此処も外の【普通の人間】と言われる人間が暮らす世界と、殆ど違う点は無い。
あちこちに、【被害者ナンバー】と言われる物をぶら下げた人が沢山歩いている。
買い物袋を持っていたり、本を読んでいたり、【普通】の生活をしている。
彼等も普通の人間。何にも僕と変わらない。僕の瞳に映る景色は、彼等の普通を証明している。
なのに…
彼等が身につけている【被害者ナンバー】が見える度に、悲しくなる。どうして彼等は、こんな生活をしなければならないのかと……高い塀の中に閉じ込められた【不安と恐怖】の生活を。
視野の片隅に、監視に刃物で刺されている男が目に入る。
何回、目にしても、その光景は衝撃を毎度のこと僕に与える。
あの人【狂人】になってしまったんだな…
監視の瞳には、歓喜が伺える。
狂ってしまった人を【処分】して、何が楽しいんだ…無責任な事をしたのは、お前らなのに。
あの日の事件から【狂人病】になった彼等は突然変異を起こして人を殺める行動を取ろうとする。そして、夜の八時から夜の十時の間は被害者全員が、その状態になる。他の時間は、普通に僕と変わらない生活を送っている。
でも、突然変異を起こす時間が夜の八時よりも前の人がいる。発作の様に、急に起こってしまうのだ。
もう【救う事が出来ない人間】
八時よりも前に突然変異を起こした人間は、ずっとそのままの状態で、二度と【普通の人間】に戻れない。だから、【監視】と呼ばれる人間が、彼等を殺して人生を終わらせる。
【監視】の人間は、普段から彼等を馬鹿にしている。その事は、あの日から一ヶ月監視を見ていれば分かる。勿論、今さっき殺された被害者の男の人を二度と帰らぬ人にする行動にも馬鹿にする感情が込められている。
人を馬鹿にして、何が楽しいのやら。
【狂人】になった人は何も悪くない。そうなる原因を作ったアイツらが悪い。
その人達を救う方法は、まだ見つかっていない。
だから、監視の行動が彼等を唯一救う行動。認めたくは無くても、そうなのだ。
そう考えると【狂人】になった人を救う事が出来ない僕は、被害者の方を馬鹿にする監視の奴等よりも必要の無い、無能で最低な人間。
街に立つ大きなビルが見えてくる。
あそこに【狂人病】になった人が全員暮らしている。勿論、僕の恋人の壮も。
ビルに向かって速歩きで、歩く。
この【狂人特区】に囚われた大切な恋人に早く会うために……
僕は、この可笑しな場所を壊さなければならない。
あの日に、自分だけが救われてしまったのだから。
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