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体育祭
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翌日の食堂は穏やかだった。昨日の一件もあり身構えながら入ったが、誰一人奇異の目を向ける者はいない。無意識にかの男子生徒も探したが、彼も友達と当たり前のように談笑していた。
「……もしかして、京何かやったの?」
トレイを持って列に並んでる時に、こっそり問いかける。しかし、京は首を傾げた。
「何かってなに?」
「そりゃ、なんか、みんなに明日は普通に過ごせって命令した、とか……」
京ならばそれくらいできるだろう。家柄的にも人物的にも、影響力のある人間だ。
「まさか。そんな下品なことしないよ。この学校にいる人達ってさ、損得がわかってる人が多いと思うんだよね。自分にマイナスになることはしないし、関わらないから、普通にしてるんだ」
京はそれだけ言うとさっさと進み、自分の分のお皿を取ってテーブルに向かって歩いて行った。
確かに京の言う通りだ。生徒の大半の家が大きな事業に関わっていたり、会社を経営したりしている。だから、交友関係は特に重要だ。家の利益になり得る人物や、敵に回さない方がいい相手には、露骨に下手に出る。
今回はその相手が五十山京だったから、生徒は昨日の一件を無かったことにしたいのだろう。
俺は京の隣に座った。
浅はかなことを言った。京は誰かに命令を下したり、自己のために大勢を動かしたりする人ではない。それは自分が一番わかっていたはずなのに。
自己嫌悪して落ち込んでいると、京がハッと顔を上げた。
「まずい、今日から生徒会だった」
「え?」
京はそう呟くと、急いで料理をかきこみ始めた。近年稀に見る京の早食いに、同じテーブルの生徒も呆然とする。
「綴ごめん。これから体育祭まで、一緒に登校できないかも」
京は既にトレイを持って立っていた。あまりに悲しそうな顔をしているので、俺は慰めるように微笑んだ。
「大丈夫。そうだった、もうすぐで体育祭だね。仕事頑張ってね」
「あぁ、ありがとう。じゃあ、行ってくる」
小走りでトレイを返しに行くその後ろ姿すら、京はカッコいい。
見惚れていると、スプーンにのせたままのライスがズボンに落ちた。
部屋に戻り、忘れ物がないかチェックをする。
ちゃんと電気が消えているかを確認するのも毎日の日課だ。
そのとき、コンロの横に、今朝作ったお弁当がそのままになっていたことを思い出した。冷まそうと思って存在を忘れていたのだ
コンロの横に、確かにそれはあった。高校入学と同時に、京と買いに行った弁当箱だ。不思議なのは、俺が京の弁当箱を持っていて京が俺の弁当箱を持っているということ。だから、どうやっても俺は京のぶんのお弁当しか作れない。いや、新しいものを買えばいいのだろうが、なんだかそれも味気ない気がする。
弁当箱に蓋をして、青色のハンカチで包む。そうしてから、今日京と一緒に昼食をとれるのだろうかという疑問が湧き上がってくる。
京は生徒会役員だ。中等部の時生徒会長だったこともあって、入学早々推しに推されて役員となった。
生徒会は行事のたびにこれでもかというほど忙しくなり、今回の体育祭も例に漏れない。朝昼放課後と仕事があるらしく、その時期は一緒に登下校しないのだ。
作った弁当が虚しい。昨日約束したとはいえ、京の仕事状況によっては一緒に食べられない。
でも、仕方ないか。
自分のわがままを押し通すことは、京にもほかの生徒会役員にも迷惑がかかってしまう。
俺は弁当箱を鞄の中に仕舞うと部屋を出て、かちゃりと鍵をかけた。
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