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体育祭
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4時間目はホームルームだった。予想通り、体育祭の出場競技を決めるらしい。
自分には関係のないことだが、書記が黒板に競技を書いていくのをウキウキした心持ちで眺める。すると、トントンと肩を叩かれた。見上げると、そこには学級委員の男子が立っている。
「書記が一人だと大変だから、金扇くんは誰がどの競技に出るか、ノートに書いてくれない?」
「あ、うん。いいよ」
「ありがとう」
メガネの優しげな委員は俺にノートを手渡して前に戻っていった。
書記でもなんでもないのだが、そういえば去年もこのノートを書いていた気がする。役割があるだけありがたい。俺も、体育祭に参加しているような気分になる。
俺は後ろの陸に聞いた。
「陸は何に出るの?」
「俺は騎馬戦と、パン食いかな。騎馬戦は必ず出る。出て、相手チームの帽子剥ぎ取ってやる!」
闘志を燃やすのはいいが、細身だが180センチ越えの陸は100%騎馬だろうと思う。しかし、それは言わないでおこう。
生徒は、出たい競技に手をあげる。彼らの名前を黒板に書いて、定員通り収まったところはそのまま決まり、定員オーバーしているところは、定員割れしている競技に流れるように話し合いで決めた。
俺は決まった名前をノートに書いていく。
人気だったパン食い競争の話し合いから戻ってきた陸は仏頂面だった。どうやら負けたらしい。
「くそー! 俺は騎馬戦と障害物競走になったよ」
「いいじゃん。障害物競走楽しそう」
「あれ、毎回運営側が鬼畜に設定してるから嫌なんだよな……」
「あぁ、確かに」
秀明高等部の障害物競走は鬼畜で有名だ。去年は網潜り、こんにゃく地獄(かなり臭い)、坂登りからの池落ち、片栗粉まみれ飴探し、チクチクハードルだった。
運営は生徒会で、去年これを引き継いだのがまさかの京だったらしい。京が考えたということを踏まえてもう一度競技内容を見ると……うん。
京は「あんな下等な競技を考えるなんて、俺も暇じゃないんだけど」と悪態をついていたが、俺は知っている。去年の体育祭、テントの下で京が微笑んでいたことを。
「まぁ、頑張ってね……」
陸の肩を叩き、俺は前を向いて黒板を見た。どうやら、決まらなかった競技も話し合いが終了したらしい。俺はそれをノートに書いて、学級委員に提出した。
「じゃあこれでホームルームを終わります」
その言葉を皮切りに、各自が昼食タイムに入る。俺は鞄の中から弁当を取り出して、椅子を回転させた。陸の机がテーブルだ。
そこに要も椅子を持ってやってくる。
「3人で食べるの久々だよね。綴のこと、いっつも京くんが持ってっちゃうから」
「ごめんね」
「いいのいいの! 綴が楽しいのが一番だから」
要がそう言ってくれたことが素直に嬉しい。
俺はハンカチに包まれた弁当を開いた。
「あれ、今日はコンビニのじゃないんだな」
陸が不思議そうなに聞いてくる。ちなみに、学園の生徒が言うコンビニとは、各寮から校舎までの通学路途中にある店のことだ。生徒の生活必需品が全て揃っている。
「うん、なんとなく今日は作ってみようと思って」
咄嗟に誤魔化した。せっかくいい雰囲気なのに、本当のことを言ったらまた落ち込んでしまいそうだ。
「でも、それ京君のじゃないの?」
「……え? なんで?」
要の鋭い質問にギクリとする。
「だって、前に京君に弁当作ったとき僕らに自慢してたじゃん」
「そうだっけ?」
陸が要に聞く。
「うん」
「そう、だったかな……」
俺にも記憶がない。でも、要が言うならそうなのだろう。
どう誤魔化せばいいかな。嫌だな、友達を誤魔化する方法考えてる自分。この二人は本当のことを言ってもバカにはしないだろうし、慰めてくれるんだろうけれど、でも、そういうのもいらないんだ。俺は別に俺を可哀想とは思っていないし……。
そっか、俺はそれが誰であっても、京との関係を誰にも何も言われたくないだけなんだ。秘密にしておきたいんだ。
「えっと、それはね……」
「綴」
要の質問に答えようとしたとき、教室の入り口付近から名前を呼ばれた。耳に馴染んだ声だった。
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