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京と綴の嫉妬事情
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本当は24話の後に入れようと思ったのですが、あまりストーリーに関係無い上イチャイチャしてるだけなのでカットしました。気になる方だけどうぞ。
京と綴の嫉妬事情
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「……なんか、不公平な世の中だよな」
京がポツリと呟いたので、俺は箸の手をとめた。その横顔は、どこか物憂げだった。
「どうして?」
京がそんなことを言うなんて、何かあったとしか思えなかった。よっぽどのことがない限り、彼はこんな風に憂いたりしない。
「……俺が一番綴のことが好きなのに、綴といつも一緒にいるのはあの2人だ」
京は口を尖らせた。俺は呆然とした。
「そう思わない? 俺は同じクラスにも、綴の友達ポジションにもなれない。こんなに好きなのに」
「えっと、恋人でしょ?」
「俺は友達にも恋人にもなりたい」
なんてことを言うんだと思った。
しかしながら、付き合う以前は友達だったのだから、それも親友だったのだから、ある意味京は望みを叶えているように思うのだが。
「それは同時にはなれないの?」
「どういうこと?」
「だって、俺と京って恋人同士の、その、あ、甘い雰囲気になることの方が少ないっていうか……友達的なポジションのこと方が多くない?」
京はしばし考えていたが、何かに落ち着くとぐっと眉を寄せた。何やら納得しがたいことに気がついたらしい。
「でも、じゃあ友達ポジションなら尚更綴があの2人と仲良くするのは嫌だ」
「もー、なんでそうなるのさ」
呆れたとため息をついた俺だったが、内心少し嬉しく思っていた。京が俺のことでこんなふくれっ面をするなんて、可愛くてたまらない。
「そもそも、綴が嫉妬しなさすぎなんだよ。俺が生徒会で誰と何してるとか不安にならないのか?」
全く思ってもみなかったことを言われて面食らう。指摘されて気がついたが、京が誰と仲良くするだとか誰と一緒にいるだとかにあまり不安を覚えない。
「俺の嫉妬は、京のとはちょっと違うんだって。前も言ったでしょ。人に対しては嫉妬しないっていうか……」
「しろよ! なんかそれ、逆に不安になるだろ」
こういうときの京は可愛い反面面倒くさい。
俺は京を無視してまた弁当を食べ始めた。京はこちらを向いて俺が何か言うのを待っているが、俺は本当に何も思っていないので言うことがない。
多分これは、京への圧倒的な信頼と自分が愛されているという自信なのだと思う。かれこれ10年以上一緒にいるのだ。
今更京にどんな不安を覚えればいいというのか。
それに、元を辿れば愛されている自信を持てと言ったのは京ではないか。
そのとき、俺の頭に浮かんだ男がいた。切れ長の、眼鏡の男。懐かしいその姿に、俺は思わず口を開いていた。
「弘旗隼一郎……俺、隼一郎君になら嫉妬したことある」
「隼一郎? あぁー……あいつか」
京は「そんな奴いたな」とでも言いたげな顔をした。しかし、隼一郎君は京の再従兄弟である。要は親戚である。
「あれ、嬉しくない?」
予想していた反応と違うので聞いてみると、京は「そんなにかな」とバスケットからてりやきサンドイッチを取り出してかぶりついた。
「隼一郎ってことは、4、5年前の話だろ?」
「う、うん」
京は当時のことを思い出しているようだった。眉間に寄っていた皺が、少しずつ解けていく。
その様から、京にとってのあの3人での日々が、それほど悪いものではなかったのだということが伺えた。
「……あ、今、俺嫉妬してる」
「え?」
俺は京の頬を両手で包み込んだ。京はキョトンとした顔をしている。自分がさっきまでどんな顔をしていたのか、自覚がないのだ。
「隼一郎に嫉妬した」
はっきりとそう告げると、京はしばし黙ってこちらを見つめたあとふっと微笑んだ。
「嬉しい?」
そう問うと、京は俺の手を包み込んで自分の頬にすり寄せるようにした。
「すごく」
俺はゆっくりと目を閉じると、おもむろに京の肩に頭を乗せた。
自分はもう人に対して嫉妬しないと思っていたが、実はそうではなかったらしい。でもまあ、きっと京みたいに頻繁になったりはしないんだろうけど。だって……。
「でも、隼一郎かぁ。あいつはただの幼馴染だからな。俺がなんとも思ってなさすぎて実感湧かないな」
京は手を離すと、空を見上げて呟いた。
「って言いつつ、前は俺に内緒で2人で遊んでたじゃん」
「それは、ほら、なんか違うんだよ、綴と隼一郎は。隼一郎は悪友みたいな感じだから」
俺は「えー」と非難の声をあげた。
「俺はどっちかというと、綴が学園関係の人に嫉妬してくれたら良かったな。まぁ? 考えようによれば? 綴くんはただの幼馴染の隼一郎くんにまで嫉妬しちゃう独占欲の強い可愛い子だということになるんだけどさ」
その言い方にイラッとした俺は、ニヤリと笑みを浮かべると京を指差していった。
「ごめんね、京はこの学校に友達いないでしょ? だから、嫉妬する相手もいないっていうか」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げると、京は必死な顔で何やら話していた。しかし、俺は京との間に一人分のスペースを作って優雅に最後のブロッコリーを咥えた。
食事を終え、弁当を包む。いつもより盛り上がった会話は、優しい春の空気が彩って連れていった。静かになった空間に、俺は言いようのない幸福感を感じていた。
チャイムが鳴るまで、今日はきっと離れないだろう。そう思って、俺はその場に座ったままだった。
不意に、京がこちらに寄ってきた。その気配を感じたまま空を見上げていると、ベンチに置かれた右手に、京の左手が重ねられた。それは周りには見えないだろう、微かな触れ合いだった。
京の手の触れたところが心地よい。俺はそのま目を瞑った。
瞬間、頬に柔らかな何かがあたる。横を見ると、京の顔が間近にあった。
「……好きだよ」
京は微笑んでそう言った。俺は頷き返すと、お返しにしてはあまりに拙いが、京の手を優しく握りしめた。
「友達……はいるから、絶対綴に嫉妬させてやるからな。俺ばっかこんな思ってんの、どう考えても不公平だから」
京は拗ねたような、恥ずかしそうな顔でそう言った。
手が少し熱かった。
俺はクスリと笑う。
「京には無理だよ」
だって、嫉妬する暇すら与えてくれないじゃないか。
懲りずにこんなことしてくる人に、愛されてないかもなんて思うわけないだろ、バカ。
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