アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
微妙な距離
-
何か他に、変な空気にならない話題は無いだろうかと探して見つけたのは、本の話題だった。
まるでお見合いのようだが、この際話せれば何でもいい。
「間宮君は本とか読む?」
「本、ですか?」
間宮君の拍子抜けしたような顔に、やはり話題ミスだったかと思うが、ついで「はい、読みます」と答えてくれたのでどうにかセーフだった。
「俺はよく小説を読むんだけど、間宮君はどんなジャンルを読むの?」
「僕も小説です。教科書の中の本で気になったのとか、最近読んでます」
「本当!?」
それは俺がよくやっていたことだ。この学園にいると、どうしても外より本の情報が入ってこない。
何か読むものはないかと探すときには教科書がうってつけなのだ。
俺はいつのまにか身を乗り出して話をしていた。
「わかります! あの方の作品は独特な言い回しが多くて、それがストーリーにどう関係するかっていうより、言葉遊びが楽しいんですよね」
「そうなんだよね! 嬉しいな、身近に読んでる人がいて」
「あ、もしかして僕が初めてですか?」
「うん。マイナーな人だし、それでいて文体も不思議な小説家さんだからね。あ、でも、一人読んだ人がいるな……」
しかし、それは自主的に読んだというよりは俺が「読んでみて」と貸した感じだ。
「誰ですか? 僕の知ってる人?」
「うん、京だよ。五十山京」
その瞬間、一瞬だけ、間宮君の目つきが変わった。
それに心臓が嫌な音を立てたが、それを自覚した頃には間宮君はいつも通りだった。
「へぇ、京先輩も小説読むんですね」
「京は読書はするけど、ジャンルは啓発本とかが多いよ。哲学者のとか、評論家のとか」
「格好いいですね!」
だから、俺が貸したあの本を「面白かった」と言って返してきたときは驚いた。
そして、絶対に嘘だと思った。京は小説のような空想、現実ではないことには毛ほども興味が無い。
国語の授業でストレスが溜まっているときの大体の原因は「小説の良さがわからない」だからだ。
じゃあ、なぜ嘘をついたのだろうか。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
36 / 569