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校舎から間宮が血相を変えて走ってきたのは、校庭で体育祭の動きの確認をしているときだった。
日光に当たってはいけないはずなのに、躊躇うことなく外に出て運営のテントに駆け込んできた。
「すみません! 五十山さんはいますか!?」
「間宮? どうした?」
そのとき俺は生徒にマイクで指示を出すところだった。
しかし、間宮の尋常でない様子にすぐにマイクを切ると、彼に近づく。
「あ、あの、なんか、綴先輩が、過呼吸? みたいになっちゃって、僕、どうすればいいか、わかんな……」
間宮の言葉を最後まで聞くことなく、俺はテントを飛び出した。後ろから生徒会のメンバーの声が聞こえたが、それどころではない。
綴が過呼吸?
なんでそんなことになった?
また体調を崩したのか?
いや、でも朝の時点ではなんの変わりもなかった。見落としたのか?
それとも、間宮と何かあった……?
いろいろな憶測が頭をよぎるが、それでも足を動かすこと以外にできることはなかった。
生徒会室に飛び込み、別室のドアを開けると、すぐに異常な呼吸音が聞こえた。
別室の真ん中に置かれたテーブルの奥には、床に座り込む綴の姿があった。
そして床には吐いたのだろうら嘔吐物が散らばっている。
「綴!!!」
自ら喉元を締めるように綴の両手は首に回っていた。それをやめさせようとするも、普段では考えられない力がそこにかかっている。
綴を背中側から抱きしめると、意識を失ったように俺の胸元にもたれかかってきた。
そのおかげで、少しずつ首に回っていた手が取れてくる。
綴の首は手の形に赤くなっていた。
綴の顔には幾筋もの涙の跡が見え、口元は汚れていた。
呼吸が落ち着くまで、俺は綴を抱きしめていた。無理に場所や態勢を変えるのは逆効果だ。
「……ねぇ、何があったの」
後ろに立っている間宮に問いかけた。
息をのむ音すら聞こえる静かな空間だった。
「何も、していません」
「じゃあ、綴と君がただ会話をしていたら、綴が突然こうなったと?」
「……はい」
「そうか……」
俺はいつにも増して白くなった綴の体を抱き寄せた。呼吸は落ち着いてきていた。
これなら、もう動かしても大丈夫そうだ。
「ここの処理は俺がするから間宮は生徒会室の方にいて」
「あ、の、綴先輩は……」
「俺が面倒見るから大丈夫」
「はい……」
間宮は大人しく生徒会室に戻って行った。
バタンと扉が閉まる音がする。
綴を一人で帰らせるわけにはいかないな。放課後までは保健室にいさせようか。
「何があったか聞くの、嫌だなぁ」
小さく呟いた言葉は、静寂に飲まれて見えなくなった。
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