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本当の気持ち
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冬樹君と3階に戻り、無線で本部とやりとりしながらその都度得点板を更新していく。
冬樹君は日光に当たれないので、俺がベランダに出て作業をした。
「あの、僕……いらなくないですか?」
教室の中で椅子に座る冬樹君がそう言った。
得点板を危うく落としそうになりながらも、どうにか枠の中に収めると、俺は振り返り暗い教室の中にぼんやりと座る彼を見た。彼に
表情は無かった。
「なんでそんなこと言うの?」
「だって、綴先輩は去年この仕事を一人でしていたんでしょう? じゃあ、何も僕が手伝わなくてもいい」
俺は教室の中に入ると、冬樹君に近づいた。
椅子に座る彼は、本当に今までの彼と別人のようだった。
冬樹君の前にしゃがみこむと、俺は膝の上に置かれたその手を取った。
「必要だよ」
触れられると思っていなかったのか、冬樹君の瞳がわずかに揺れた。
「俺、冬樹君と仕事をするのが楽しかったんだ。俺人見知りだから、あんまり友達もいなくて、こういうことをしたのも実は初めてだった。冬樹君がいなかったら、今年の体育祭はこんなに楽しくなかったよ」
「……あんなことしたのに?」
冬樹君は掠れた声を発した。そして、歯を食いしばると俺から目線を外した。
「あんなに酷いことしたのに、楽しかったなんて、どうして言えるんですか」
記憶がない、とは、流石に言えなかった。それに、その答えは的を射ていない気がする。
冬樹君は俺に酷いことをした。
俺は冬樹君に傷つけられた。
冬樹君は俺のことが嫌い。
悲しい事実はたくさんある。
けれど。
「楽しかったんだから、仕方ないよ」
そう笑うことしかできなかった。
冬樹君は更に俯き、ついに俺からも顔が見えなくなった。
彼の手が震えた。前髪に隠れたその奥を見ようと髪をめくり上げ、俺は息を飲んだ。
美しいまでの涙をたたえた彼がそこにはいた。
それはポタリと冬樹君の制服に落ちて、すぐに染み込んだ。
「……やっぱり綴先輩は優しいなぁ……」
そう言うと、冬樹君はまたぎゅっと瞬きをしてその美しい涙を落とした。
睫毛が揺れて開かれたその目は、表情は、優しく微笑んでいた。
「だから、あなたのことが好きなんです」
冬樹君は俺の手を握りこむようにすると、前のめりになってそう告白した。
「え、え、え?」
困惑する頭に追い打ちをかけるように、冬樹君が俺を抱きしめた。
ふわりと香る甘い匂いに、思わず体の力が抜けた。
「綴先輩、酷いことをしてごめんなさい。僕は、あなたのことが大好きなんです。もう、何年も前から……」
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