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本当の気持ち
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突然の告白に何も考えられなかった俺の意識を引き戻したのは無線の音だった。
得点板が更新されないから急げと、そういう内容だった。
冬樹君は俺を離すと、手を引いて一緒にベランダに出た。
「あ、日光が……」
そう言って体を押し戻そうとするが、冬樹君は動じず、そのまま枠から得点板を抜き出した。
「少し当たるくらいなら平気ですよ」
そう言って笑う姿は、儚げでも完璧でもない、いつも通りの彼だった。
得点板を更新し、お昼休憩に入った。
この日は京とは完全な別行動で、俺と冬樹君は3階の教室でそのままお弁当を食べた。
冬樹君の突然の告白から、俺の中で彼への認識があっという間に崩れ去った。再構築するのには、まだ時間が経っていない。
「気まずいですよね、僕があんなこと言って」
「え、いや、そんなことないよ、うん」
口下手のテンプレのような言葉がするりと出る。
慌てて口元に手をやると、それを見た冬樹君は笑っていた。
「ふふ、分かりやすいですね」
恥ずかしくなって、バクバクと目の前のお弁当に手をつけた。
いろいろと、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「……あの、これだけは言っておきたいんですけど、僕、本当に綴さんのことが好きなんです。これは嘘じゃないんです。この間までずっと嘘ついてた僕が言うなんて、まるで信用がないのはわかってるんですけど……」
「そんなことないよ!」
確かに、冬樹君は京に好意を抱いていると思っていたから、かなり驚きはした。
それに、ぼんやりとだが京のことが好きだと告げられてかなりショックを受けた記憶もある。
それが180度回転して全て嘘だったのだから、冬樹君の演技力には舌を巻くのだが、今の彼が嘘をついていないことは根拠がなくともわかった。
冬樹君は箸を止めると、教室から見える外に視線を移した。
「僕、綴さんのことが好きだって自覚したのは、僕が中学2年生のときなんですよ」
「え、3年前? 俺たち交流あったっけ?」
記憶を辿るも冬樹君の顔は見当たらない。彼ほど可愛い男の子なら、記憶に残っていてもおかしくないのに。
冬樹君は少しだけ寂しそうに笑った。
「綴さんに記憶が無いのは知ってます。だって、京先輩の教室で会った時も初対面の反応でしたもんね」
「初対面じゃなかったってことは、あのときの冬樹君は……」
「全部演技です。まぁ、京先輩に関してはほぼほぼ初対面だったので本当の反応ですけど。京先輩が僕を覚えてないのは想定内でした」
京も相当な策士だが、冬樹君もかなりである。
今までのことを全て話してくれるのは嬉しいが、逆に信用できなくなりそうだ。
「俺が冬樹君のこと覚えてるっていうのは考えなかったの? まぁ、覚えてなかったけど……」
「その可能性もちゃんと考えてはいました。でも、綴さんは僕があなたの名前をフルネームで呼んでも、自己紹介をしても特になんの反応もなかったので、覚えていないということにしていました」
「なんか、本当にごめん」
「いいんです! だって、もしあの時綴さんが僕のことを覚えていたら、僕はきっと、もっと酷いことをあなたにしていたと思うから」
そう言うと、冬樹君はぎゅっと肩を強張らせた。
「綴さんは知らないと思うけど、僕と綴さんってすごく似てるんです。だからかな、あなたに恋情を抱いてあなたを知っていくうちに、どんどん僕はあなたが羨ましくなっていった。僕と同じはずの綴さんは、僕に無いものばかり持っていて……だから……それを、奪ってやったら……どんな顔をするのかなって。綴さんも僕と同じになるなんて……そんな馬鹿なことを、考えたんです……!!」
冬樹君は堰を切ったように涙をこぼし始めた。
激しい嗚咽を止める術を俺は持っていなかった。
ただ、何でもそつなくこなす完璧な後輩が、今はとても小さく頼りなげに見えた。
冬樹君の背中を優しく撫でているうちに、少しずつ彼は落ち着きを取り戻して行った。
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