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内と外
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最初のお茶屋に着くと、そこの女将に挨拶をして控えの間で準備をした。
今日のお座敷は全部で12席。一つのお座敷には約30分ほどしか留まれない。最後のお座敷ではヘトヘトだが、そこでも笑顔を貫くのがこの仕事である。
椿と舞の演目を確認している時、ふと京の顔が思い浮かんだ。
京は今日何をしていたのだろう。
かなり疲れていたから休んでいるといいのだが、彼のことだから勉強は欠かさないだろうな。
友達がいないので町に出ているということはないだろうが、あ、でも一人でお茶しに行くことはあるか。
昨日まであの学園にいたのが嘘みたいだ。俺が本来いるはずだったこの場所は、学園とは全く違う世界である。
一人称を変え、年上に従い、敬い、気を遣い、笑顔を絶やさず、誰からも可愛がられる存在であり続ける。
それは苦ではない。
しかし、いつかこの花街で生きる日々がやってくる。
京と離れ、あの家を継ぎ、新しい陰間達を育てる日々が来る。
俺はそのとき、この狭い世界に耐えられるだろうか。
あの学園にある自由を知った後で、戻って来られるのだろうか。
「柊、聞いてんの?」
「え……」
目の前には端正に整った、しかし仏頂面の椿の顔があった。椿の赤の着物と俺の青の着物が触れるほど、椿は近くにいたらしい。
「ごめん、なんだっけ」
「ほんっと最悪! 何考えてたの、仕事中なのに」
「ごめん……」
「ただでさえ柊とは一緒に仕事したくないのに。外の世界でお気楽な奴と、俺たちと、どうして同じ扱いなんだよ」
椿は立ち上がるとぐっと両拳を握りしめた。
「一曲目は僕が右で柊が左、倉山様は柊指名だからそっちについて。二曲目は柊が舞って僕が笛。地方さんは他につくから」
「ありがとう」
ぶっきらぼうながらも教えてくれた椿に感謝していると、中居さんがお客さんがやってきたと伝えにきた。
女将さんから呼ばれるまでの廊下で待機の時間は、どくどくという心臓の音がやけに大きく聞こえる。
上手く振る舞えるだろうか、楽しませることができるだろうか。そんな不安が浮かんでは消え浮かんでは消えていく。
しかし、この街での花名を呼ばれ一歩を踏み出したその瞬間、俺は自分が自分で無くなるような感覚と共に、そのお座敷の空気全てをコントロールできるような、そんな不思議な感覚に体が支配されるのだ。
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