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「可哀想」な子供
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さっさと部屋に戻ると思った花鶏は、まだ和室に座っていた。
俺が声をかけようとすると、花鶏はそれまで開いたり閉じたりしていた口をキュッと結んでから声を発した。
「学校は、楽しいですか」
「え、あ、うん」
真意が掴めずなんとなくそう答える。楽しくない訳ではないから、嘘ではない。
花鶏は真面目な表情で「そうですか」と言った。
「どうしたの? 突然」
聞き返すも、花鶏はふるふると首を振った。なんでもない、ことはないと思うが。
「今日はありがとうございました。失礼します」
有無を言わせず、花鶏は部屋を後にした。一人残された俺は、花鶏の思い詰めたような表情が気にかかっていた。
鶫と杜若兄様に見送られて、俺は金扇屋を後にした。帰りも、行きと同じく平田さんが運転した車に乗り込む。
窓の外の移りゆく朱屋町を眺め、そこに住まう芸者や陰間を思った。
ここで働くほとんどの人間が、高校に通っていない。
俺の家に関して言えば、中学校にすら行っていない。
みなそれぞれ事情があり、中学や高校に行ける経済力がある家の子供が望んでこの町にやってくることは少ないのだ。
金扇屋は、小学校を卒業してすぐに入ることもあり、普通にいけば中学校に通える子供は基本的に入れていない。
皆、孤児であるか親がいても育てる力のなかった家の子供だ。
そういう探り合いをするのはマナー違反だが、どこから漏れるのか、噂は絶えず町を巡っている。
そんなことは当たり前。この町にいれば、「だからなんだ」と突っぱねられる。可哀想な子供扱いは誰もしてくれない。
慣れていたはずなのに、何故だろう。花鶏のあの思い詰めたような表情を見てから、途端にそれらの事実が気になりだした。
花鶏には家族がいない。母が病気で早くに亡くなり、父は花鶏を見捨てて逃げ出した。大まかにそんな経緯があった気がする。
そんな兄弟達の中、俺だけが、あの家で好きなように育てられている。
普通の家の子に比べれば自由は少なかったが、こうして学校に通い、友達を作り、笑ったり悩んだりと充実した生活を送っている。
悪いことじゃない、悪いことじゃないのだが。
えもいわれぬ後ろめたさを感じるこの心が苦しくてたまらない。
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