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そして回帰…、真っ当な理不尽
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………そうだ。2年前のあの日。
『あっくんがいなくなったら嫌だな…』
星(あかり)はあの日、あのとき、病院で俺に言ったんだ。俺もそれに応えた。……はずだ。
『なんないよ……ずっと星(あかり)の側にいるよ』
『…本当に?』
『いないでほしくても、いる。星(あかり)は何も心配しないでいい。俺のことだけ見てればいい。
だから、星(あかり)、俺といて…。
一生側に、一緒にいて…』
そう、あれは2年前、俺が高1の秋だった。
星(あかり)の修学旅行に同行する2日前に俺から星(あかり)に言った『誓いの言葉』…
星(あかり)はあのとき、なんて答えた…?
「………………………ありがとう」
思い出した。
『一生側にいてほしい』、そう言った俺に星(あかり)はうん、とは言わなかった。
あのとき星(あかり)は一言も『承諾』してない。
『俺の側にいて』
『一生、側にいるよ』
全部、『俺が』星(あかり)に言った言葉だ。
ていうか星(あかり)は一言もそういった、…なんだろう、俺とずっとずっと未来の時間を共に過ごしたいなどというような甘い結婚の誓いみたいなことは何一つ言ってない……
………いつから…?
………、
『最初から』だ……
俺は少し信じられないような、けれど本当にまぎれもない事実にいきなり突き当たった。
3歳で星(あかり)と出会って10年以上ずっと一緒に過ごしてきて…、その間、ほぼ1/3の時間を同じベッドで費やし、愛し合う最中にも何度も何度も好きだと伝えられ、俺はそれに応えないで、直近数年の間ずっと、好きだという言葉を星(あかり)には決して言わずに過ごしてきた、
小さい頃は「ずっと一緒にいようね」といったこと、1度ぐらいは言われたのかもしれない、よく覚えていないところもあるけど、少なくとも俺が13歳のとき、初めて星(あかり)に血を吸われ、初めて星(あかり)と寝たあの日からずっと
『梓のそばに、ずっといる』
そんな言葉は一度だって聞いたことがなかった。たとえ何度、
『梓は誰にも渡さない』
『好きだよ、あっくん…』
何度、何度、…何度、何度何度何度、何度そんなふうに愛の言葉を囁かれても俺はそれに応えることはなく、それでも星(あかり)の全てを把握しているのは宇宙じゅう探しても俺1人だけだと思っていた。
けど、そんなことは全部嘘だった。
自分が星(あかり)のことを『何も』『知らなかった』、何もかも知っている『つもり』で、全然『知ろうともしてこなかった』
そのことに今さら、俺は愕然としていた。
さっき星(あかり)の口から『留学』の2文字が出たとき、『理不尽だ』……そう思ったけれど、最初に『理不尽』を繰り返していたのは俺のほう、星(あかり)はそれに同じように『理不尽』をもって返してきただけ、
それも直近約5年分が積み重なった、最大で最強の『理不尽』…。
……ふっ。そう、たったそれだけだ。
シンプルで、実にありがたいよ。
俺は食べさしの海鮮丼の箸を置いた。おもむろにテーブルを立って星(あかり)が座る椅子のところまで回り込み、座っている星(あかり)の腕を掴んだ。
いつもなら星(あかり)とセックスするのはたいてい星(あかり)に血を吸われたその後だ。
場所はそう、……病院の、あの無駄に豪華な部屋の、無駄に豪華で無駄に綺麗で無駄に大きなベッドの上か俺の部屋、……星(あかり)の部屋、……ああ、いや、場所はどこでもしちゃうな……、思わせぶりなことを言ってごめん。
だけど星(あかり)に血を『吸われていない』ときに星(あかり)を『抱く』ことは一度もなかった。
たった一度も。
……なんてことだ……信じられない。俺はその事実さえ、いまのいままで全然、全然、見逃していた……
星(あかり)は黙って俺を見上げ、…真顔だった…、それから箸を置いてゆっくり立ち上がった。
俺は星(あかり)のすぐそば、ダイニングテーブルと椅子のすぐ横に2人で窮屈に向かい合って並んで立ったところで星(あかり)の後頭部に後ろからゆっくり手を回した。
柔らかでサラサラな星(あかり)の黒髪に手を触れ、そのまま自分の首にと引き寄せた。
「吸って……星(あかり)…、…血、吸って、……」
「………出来ない」
「なんで。したいんだ。……星(あかり)が血を吸ってくれなきゃ…、」
そこまで言ったそのとき、
ドンッ………!
星(あかり)に突き飛ばされ、よろめいて2、3歩後ずさった。後ろに倒れて尻もちついたりしたらめちゃくちゃカッコ悪いところだ、よろめいただけで済んだのは本当によかった、…けれど。
「は…?何それ…、よく分からない。
あっくんさ…、俺が血を吸わなきゃ何なわけ…
俺に血を吸われなきゃ何もしないのかよ…?
俺はいつでもあっくんのことが好きだ。いつだってあっくんとセックス出来る。
血を吸うとか吸わないとか関係ない、俺は血を吸わせてくれるからあっくんが好きってわけじゃない」
「…いや、違…、星(あかり)……っ、」
「うるさい。黙れ。あっくんは俺と全然違うよな、俺が誘わなきゃ、血を吸わなきゃ抱くこともない、俺が誘わなきゃ手も繋がない、俺が迎えに行かなきゃあっくんは…、…、」
俺が見たのはもの凄く感情をあらわにした星(あかり)の顔だった…、強くまくしたてながら星(あかり)はドンッ、ドンッ、と俺を何度も何度も突き飛ばし、それでじりじり追い詰められた俺はとうとう壁に背中がついてしまった。
「……あっくんにとって、俺は何なの……」
…胸を締め付けられるようなその声…、
星(あかり)はいつのまにか泣いていた。
「…何って……、星(あかり)は俺にとって、……そう、特別な、」
バシッ………!
え
何だろう、今の音…、
頬がかあっと熱を持ってジンジン激しく抗議してくる。
初めて、星(あかり)に頬を打たれた。
---
(続く)
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