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「――穂中」
「んん……?」
自分の名前を呼ばれ、ハッキリとしない意識の中目を開ける。
何度か瞬きをするとぼやけていた視界がクリアになる。
目の前に、何か黒くて長いものが…
「起きたか?もう着いたぞ」
「先生……の腕っ!?」
抱き締めていた何かは先生の腕で、黒いのはスーツの色だった。
どうしてこんな状況になっているのか分からずに困惑していると、先生におでこをピンッと弾かれた。
「言っとくけどお前からだからな。早く降りるよ」
「ふぁい…」
地味に痛かったおでこを抑えながら荷物を持つ。
通路を挟んで隣にいた斉藤先生がグッと親指を立てていたが何がグッジョブなのだろうか。
宿泊先に着くと、荷物を持って広いホールに集まる。
そこで先生からの話があって、部屋や食事、お風呂などの説明があった。
この後は早速夕食作りをするらしく、それまで時間があるので俺は部屋の探索を始めた。
「すごーい!外が見えるっ」
「わ!謎の掛け軸スペースっ」
「冷蔵庫もあるよ!」
「うるさい百馬。少し落ち着け」
芽鶴に言われるがまま荷物を整理して大人しくする。
あんまり怒らせると俺のお母さんより怖いからね、芽鶴。
夕飯作りのために制服からラフなTシャツに着替えると、突然部屋の襖がパーンッと勢いよく開いた。
「お!お前らと一緒の部屋かー百馬のいびきデカそうだな〜」
「おっきくないし!静かに寝るもん!」
「声が大きいっ」
ばこっ、と持っていた帽子で叩かれてあいたっと声を漏らしながら頭を抑える。
今の、俺悪くないよね?理不尽だ。
そして鈴木に続けて入ってくる後の二人。
合計六人で二日間寝泊まりをする。
いびきはしないんだけど、いつもの抱き枕がないから寝れるか心配だ。
持ってこようとしたけれど芽鶴に邪魔だと止められた。
あれがないと落ち着かないのになぁ。
そうこうしている内に時間が経ち、着替えた俺らは設備してあるキャンプ場へと向かった。
「お肉…」
「すごいなこの学校。豪華すぎねぇ?」
目の前に並べられた沢山の赤いお肉と野菜。
焼く前なのにどれも美味しそうでぐ〜とお腹が鳴った。
夕食作りと聞いたから何を作るかと思えば、普通にバーベキューだった。
先生達の何とも粋な計らいだ。
生徒全員が集まったところで、学校で決めた男女六人の班でそれぞれ焼いて食べると聞く。
野菜は自分たちで切って、串に指したり味を付けたり。
とりあえず先生たちからはたらふく食え、とのことだった。
早速俺は包丁を持ってサクサクと野菜を食べやすい大きさに切っていく。
料理するのは慣れているし、何より早く食べたいからどんどん切り進めていく。
串刺しは苦手そうな芽鶴に任せておいた。
「意外。百馬料理得意なんだ」
「食べるのも好きだけど作るのも好きだからね!亜太は怖いからぶっ叩くのやめなよ…」
「え?」
さっきからすごい勢いでバンッと鳴っているまな板。
叩きつけられる包丁とまな板が可哀想だ。
芽鶴が包丁握れないことは知ってるけど、亜太も下手なのは初めて知った。
ついに人参を隣の班の所まで飛ばしたので、本気で止めておいた。
何とか具材を切りそろえると、待望のお肉と一緒に焼いていく。
美味しそうな匂いが鼻に広がって、思わず涎を垂らしそうになったがすかさず芽鶴が拭いてくれた。
しっと我慢しながら待っていると、やっと至福の時間が来る。
「うまぁ…」
焼きあがったお肉をタレに付け、口に頬張る。
噛む度に染み渡る味が幸せで堪らない。
俺が切った野菜と一緒に食べれば美味しさは倍増して顔が綻んだ。
しばらくバーベキューを楽しんでいると、前の方から班長の招集がかかる。
何だろうと行ってみれば、デザートのフルーツを配るらしい。
先生たちは俺らをどこまで幸せにすれば気が済むんだ。
まだ食べ足りない俺はにこにこと笑顔を浮かべて先生のいる場所へ取りに行く。
どうやら稲見先生から受け取るようで、列の最後に並びやっと俺の番が来る。
下さい、と手を出すとその時稲見先生が俺の顔を見るなりふっと吹き出し笑った。
「な、なんですか…!?」
「いや、期待を裏切らねぇなあと思って」
「期待…?」
何のことだと首を傾げると、ちょいちょいと手でこっちに来いと合図され先生に近寄る。
すると手が俺の顔に伸びてきて、指先で口元を拭われた。
何かついてたのかな、と思っていると先生は拭ったその指をそのまま自分の口に含んだ。
そして一言。
「あま」
「…え、……は!?」
「タレついてた。欲張りすぎ」
「いや、あのっ…」
何事もなかったかのように話す先生。
でも俺は起こった出来事に驚いて言葉が出ない。
だって今さっきのは少女漫画で最近見たやつ。
『口元、ついてるよ』
『きゃっ、恥ずかしい…』
恥ずかしい、普通に恥ずかしいよっ!
だって拭ったとしてもそれ舐めないでしょ!?
カーッと熱くなる顔を抑えながら先生を見ると楽しそうな顔で微笑んでいる。
明らかに確信犯で俺は余計に恥ずかしくなった。
「はい、デザート。最後まで楽しんで」
「せ、先生の意地悪…」
渡されたトレイを持って班の元へ帰ると、やっぱり顔が赤いと指摘されたので必死に誤魔化した。
貰ったフルーツはどれも美味しかったけど、俺は先生のことが気になってあまり味を楽しめなかった。
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