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「素晴らしい出来だな」
「すっごいいい色だね」
「綺麗に膨れて可愛らしいわねぇ」
あれからしばらく経って生地を乾燥させオーブンで焼き上げた。
ふわりと香る美味しそうな匂いと、元の綺麗なピンク色が栄えるマカロンが見事にできている。
ここまで来ればもう最終段階。
粗熱を取って、完成した分を三人で手分けして作っていく。
中にガナッシュを絞り出して上から挟んだら完成だ。
見ているだけで満足できそうなほど美味しそうに仕上がって、我ながらよく出来ていると思う。
早速一つ口に含むと、サクッと生地が音を立てて苺ガナッシュの甘酸っぱさとチョコレートの甘さが口に広がる。
「うまぁ…」
「やだぁ、蕩け顔のほなくんかーわいいっ」
「穂中っ、その締まりのない顔をやめろ!」
二人から何やら言われているが、俺はマカロンに夢中で聞こえていない。
料理は作って食べ終えるまでが全てだ。
モグモグと至福の時を楽しんでいると、斉藤先生がラッピング袋を調理台の上に置いた。
「結構な量ができたと思うから、お家に持って帰るなり誰かにプレゼントするなりしてね」
「プレゼント…」
ムムっと眉間に皺を寄せてふと考える。
とりあえず芽鶴と亜太と、家族の分を用意しよう。
クルクルと針金で袋の開け口を留め、必要な分をラッピングする。
先生の分は…うーん。
やっぱり食べてくれないだろうな、苦手な物を無理やり食べさせるわけにもいかないし。
俺が後で食べよっと。
悩んだ末、余った残りは調理室に置いてあるタッパーに詰め込んだ。
「お疲れ様でした〜」
「はーいまた明日ね。気をつけて帰るのよ」
部員全員で挨拶をし、調理室を後にする。
カバンは教室に置いてきたから、ラッピングした物とタッパーを持って階段を下り戻る。
落とさないよう慎重に降りていると、曲がり角で見慣れた人に会った。
「あ、稲見先生」
「部活終わり?お疲れ様」
お疲れ様です、と俺も返して礼をする。
すると体を曲げたせいで手に持っていた物を落としかける。
慌てて体を上げ先生の顔を見ると、口元を抑えて笑っていた。
「相変わらずだな、変なところでドジなんだから」
「違いますっ、今のはたまたまで…」
「博物館で二回も転けそうになってたのは誰だったっけなぁ」
「そんなの知りません…」
ムッと頬を膨らませれば、先生はまたクスリと笑った。
そして俺の持ち物に気づいたのか、一つ手に取って物色するように眺め始めた。
「これは誰かに渡すやつ?」
「そうです。芽鶴と亜太と、後は家族の分でタッパーのは俺の分です」
そう言うと途端に先生はピシリと動きを止めた。
どうしたんだろうと下げていた目線を上げると同時に、俺は自分の失態に気づくのであった。
やばい、この顔は…
「穂中、ちょっと移動しよっか」
「わわっ、ちょっと先生っ」
くるりと体を回転され後ろから背中をぐいぐいと押される。
そのまま降りたばかりの階段を上がって普段使ってないであろう空き教室へと無理やり入らされた。
ご丁寧に鍵もかけられ、俺はされるがままその場に立ち尽くす。
俺が先生にあげるつもりないって知って怒ったんだよね?
と、とにかく弁明しないと、身の危険が。
目を泳がせながら必死に言葉を繕った。
「え、と…先生が甘い物苦手って聞いたから用意しなかっただけであって、意地悪しようとしたとかそういうんじゃ…」
「斉藤に聞いたんだろ?でもそういう事は直接俺に聞いてよ。俺に無くて他のヤツらに渡そうとしてたのは気に食わない」
「そ、そんなこと言われても…」
にこにこと笑顔を浮かべた奥に見える怖い表情。
確かに稲見先生に直接聞かなかったのは悪いかもしれない。
でも結果として苦手なら一緒何じゃないのか。
友達には折角作ったのだから渡したいし、家族ならもっと食べて欲しいと思う。
だから俺が先生じゃなくて他の人を優先したみたいな言い方は――
あれ、と俺はあることに気がついた。
「せ、先生。もしかしてなんですけど、ヤキモチですか…?」
ふと思い浮かんだ言葉を口にすると、先生はいつもの微笑みを崩して面食らったような顔をした。
宿泊中の時だって亜太と一緒に寝たと言ったら同じような反応をされた。
あの時も先生はヤキモチを妬いていたのではないのだろうか。
だから次の日は先生と一緒の布団で寝たのか。
普段仲良い人が他の人を優先してると思うと、そりゃあ嫉妬もしたくなるよね。
そう思えばすんなり納得がいった。
「…そうだね。穂中が俺を除け者にするなんて寂しいなぁ」
「除け者って…あぁ、特別ですよ先生っ、特別!」
「ふっ、良いように言い換えたね」
だってそっちの方がいい感じじゃないか。
先生だけ好みを考慮して、特別渡さなかっただけ。
可笑しそうに笑う先生の顔はいつも通りで、ほっとする。
けれど細まった瞳に俺はどこか違和感を覚えた。
すると手に持っていた物を机に置かれ、俺の手元にはタッパーだけが残る。
パカリと蓋を開けられると先生はにこりと整いすぎた顔で微笑んだ。
「じゃあ特別に、食べさせて?」
どうやら俺は先生の謎スイッチを押してしまったようだ。
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