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そう意気込んだのが三日程前だっただろうか。
「基礎単語は大分覚えたな。あとはプリントを作っておいたから、今日は時間ないしまた明日に――」
「き、今日しますっ、俺頑張りますからっ!」
「でも昨日も遅くなったろ?明日は休みだし、今日はいつも通りに帰りな」
パタンと教科書を閉じられ、俺の勉強は強制的に終わる。
本当は別に勉強がしたいわけじゃない。
先生に撫でてもらえるチャンスが欲しいだけだ。
後片付けをしながら先生の顔をチラリと窺う。
やっぱり気の所為じゃない?
俺はこんなに頑張ってるのに、どうしてだろう。
理由、こうなった理由がさっぱり分からない。
あの日を思い出しても特におかしなことはなかったし、その前なんかマカロン食べて美味しいって言ってくれたのに。
しかも昨日なんて同じクラスの女子の頭を撫でながら褒めてるところを見てしまった。
…してくれないのは、俺だけだ。
そんな原因不明の中、俺はひたすらに勉強するしかなかった。
けれど先生との勉強も今日で終わり。
来週からは芽鶴達と三人で勉強をする予定だ。
そうなるともう今日しかチャンスはない。
「せ、先生…」
「ん、どうした?」
俺を褒めて。
もういっそ言ってしまおうかと思った。
最近抱き締めてもくれなくて、甘やかされていない、癒しが足りない。
それなら俺から求めてしまえばいいのでないか。
そんな考えが頭をよぎったが、不意に先生の顔を見て言葉が詰まる。
もし嫌だって言われたらどうしよう。
言ってもしてくれなかったらどうしよう。
今までねだったことがない分そう思ったら口に出せなくなって、なんでもないと口を濁した。
とぼとぼと靴箱へと続く廊下を歩いていく。
持っている鞄がやけに重い気がして、その場にすとんとしゃがみこんだ。
先生に抱き着きたい。
先生に褒めて欲しい。
先生が…足りない。
ツンとする鼻を抑えるように抱え込んだ膝に頭をうずくめる。
何がいけないんだ。
どうして俺を甘やかしてくれないんだろう。
「――穂中くん?」
ふと後ろから俺を呼ぶ声が聞こえ、パッと振り向く。
そこには不思議そうに俺を見つめる斉藤先生がいて、俺は迷わず飛びついた。
「うー、先生…」
「あらあらどうしたの?何か辛いことでもあったのかしら」
優しくポンポンと背中を撫でながら、あやすように声をかけてくれる。
ほとんど俺と変わらない身長なのに、斉藤先生が大きく見えて頼もしく感じる。
久々の行為に嬉しくて回した腕に力を込めた。
「…稲見先生が、意地悪する」
「ふふ、嫌な大人ね。どんなことされたの?」
「前は俺のこといっぱいいい子って褒めてくれたのに、最近は全然してくれない。…俺も、俺も頑張ってるのに」
思っていたことを口に出すと、涙もじわりと滲んで零れてくる。
胸が詰まるように苦しくて痛くて、こんな辛い気持ちは初めてだ。
少し態度が変わっただけなのにここまで悲しくなるとは思わなかった。
ずっと一緒にいた分、感覚が麻痺してたのだろうか。
しばらく経って、抱き締めていた腕をゆるりと離し先生に向き直った。
すると先生は悪巧みをするようにふふ、と笑った。
「…穂中くん、先生いいこと思いついたわ。やられたらね、やり返せばいいのよ」
「やり返す…?」
「押してダメなら引いてみろ。一度くらいは聞いたことあるでしょう?」
「う、うん。漫画で見たことある」
好きな人に振り向いて欲しい時にわざと冷たくするって言う方法だった気がする。
この前見た少女漫画の中では、冷酷な学園の王子に猛アタックする女の子がいて、いつもの挨拶を止めたら王子の独占欲が溢れて壁ドンされてた。
そして『お前、俺の事どうでも良くなったのか?』って悲しそうな顔して女の子に迫る王子。
冷酷とは思えない意外な一面に女の子の胸きゅんが――
「穂中くーん、妄想は良いけれど戻っておいで」
「はっ!ごめんなさい、つい…」
ぽすんと頭を軽く撫でられ現実に引き戻された。
最近俺は少女漫画を読むようになってから、妄想癖が増しているような気がする。
実は授業に集中できてない理由の一つでもあるのだ。
眉を下げながら苦笑している先生の瞳をじっと見つめた。
「要するにね、わざと稲見先生に素っ気ない態度をとるのよ。穂中くんに悲しい思いをさせた事を後悔させてあげなさい?」
にやりと微笑む斉藤先生の顔は、なんだか悪魔のようにも見えた。
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