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顔にぽすんと柔らかい感触、ではなく感じたのはお腹辺り。
目を開けてみれば、お姉さんは俺じゃなくもっと上を見ていた。
「すみません、俺の弟が迷子になってたみたいで」
「あら〜お兄さんの弟くんだったのね。よかったわね、見つかって」
そう言われて振り向くと、そこにはいつもの変わらないスーツ姿の稲見先生がいた。
俺は驚いて目を見開く。
「な、なんで…」
「一人で歩いてるから心配してきたんだろ?ほら」
先生は俺の脇に手を入れ、軽々と持ち上げる。
有無を言わさず、俺はそこまま抱っこされてしまった。
「じゃあ二人とも仲良くね〜」
ひらひらと手を振りながら去っていくお姉さんに、稲見先生は笑顔で応える。
その姿が見えなくなると、俺と視線を合わせた。
「穂中は年上からよく好かれるな。体質?」
「わ、かんないですけど…昔からそうなんです」
小学生の頃から年上の女の子にはよくしてもらっていた。
でもそれは好かれてるとかそういうのじゃなくて、多分可愛がられてるだけだと思う。
悔しいけど、小さいから。
そんなことよりも、俺は先生が来てくれた理由を知りたかった。
「今日は一人で来たの?それとも迷子?」
「迷子じゃないですっ…ただちょっと一人になりたかったというか」
「…何かあった?」
覗き込むように瞳を見つめられ、言葉に詰まる。
あったのはあった。でも言えない。
気まずくなってふいっと視線を逸らすと、先生は俺の頭をゆっくり撫でた。
「花火、一緒に見ようか」
「え?先生誰かと来てるんじゃないんですか?」
「巡回しに来ただけだよ。一人でいる生徒を見過ごすわけにはいきません
「…絶対思ってない」
小さく笑う先生にムッと頬をふくらませた。
でもよかった。ナンパは成功しなかったみたいだ。
「少し場所を移動しようか。向こうに人気のない所あるから」
「お、俺、自分で歩けますっ」
いまだ抱っこされたままだった事に気づき、足をバタバタと動かすと、暴れるなと諭された。
「迷子になると困るから、このまま行くよ」
「こ、子ども扱いしないでくださいっ」
「俺から見たら穂中はまだまだ子どもだ。分かったら大人しくすること」
「そんなこと、ないもん…」
うぐっ、と先生の言葉が心に突き刺さった。
なんだか先生と俺は差があり過ぎて、違うんだよって否定された気分。
でも、年の差はどうやったって埋めれないし、成長できるものでもない。
俺が大人だったらよかった?
考えたって仕方ないのに、そんなことが頭によぎった。
俺は抱っこされたまま、俯いてじっと地面を眺めていた。
あのね先生。
先生の言う通り、俺はまだ子どもだから勘違いしちゃうんだよ。
恋愛経験なんてこれっぽっちもないから、こんなに優しくされたら思い上がっちゃうんだよ。
俺の心は稲見先生でいっぱい。
これ以上、どうしようもないんだ。
じわりと目頭が熱くなって、咄嗟に引っ込めようと目を瞑った。
やっぱり先生は、ずるくて、意地悪だ。
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