アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
魅惑の歌
-
「連れ去られたぁ!?」
電話越しのあまりの大声に思わず顔をしかめる。
「…声がデカい」
「あっ、ごめん、なんで結界貼ってたのに連れ去られたのよ」
「知らないけど、とりあえずボク達は匂いで追ってるから、トラコはどうするの」
「うーん、そうね、結界に問題がないか調べた方が良さそうね」
「その、連れ去られたのは囚人のぱんだとべーたなんだけど」
「ぱんだぁ!?!?」
「声がデカい!!!」
「あたしも行くわ、どこにいるの」
「どこって……アカネーここどこ?」
「どこって…刑務所前の大通りから西大通りの方に向かって走ってるとこですけど」
「聞こえたー?」
「うん、すぐに向かうわ」
結界を貼って一晩で連れ去られるとは…
意味があったのか??と思うが…
結界を破るほどの強い力の持ち主が来たのか?それとも結界に何か問題があったのだろうか、ボクには全く検討がつかない。
ボクを狙う者がいるかもしれない奴を自分から追っているのもどうかと思うが、
匂いで追えるのはボクしかいないと、所長の命令だ。
アカネもいるし、トラコも来るみたいだから大丈夫だと信じたい。
べーたは医療室の薬を無断で大量に飲んだことで懲罰房に入れられていた。彼の体から微かに薬の匂いが残っていたので追いやすい。
半田は半田で独特な匂いを纏っていた。
匂いの終着点は大きな廃墟のような建物だった。
「アカネ…ここやばいかもしれない」
「どういうことですか」
人の気配は確かにする。
しかし異質だった。
上手く言葉で表せないが、この中にいる者は普通ではない、普通の人間の匂いではない。
「なんというか、この中には普通の人間じゃない人がいそうな気がするんだ」
「…それは、大丈夫なんですか」
「わからない…とりあえずトラコまだ来ないかな、連絡してみる」
「もしもし、トラコ?
匂いをたどってったら廃墟みたいなところに着いたんだけど、まだかかりそう?」
「もう少しかかりそう、どうしたの?」
「ここ、なんか良くない気配がするんだ、普通じゃない人がいそうな感じで、ボクら2人だけで入るのは危険かもしれないと思って」
「わかったわ、なるべく急ー」
その瞬間だった。
電話の声が遠く離れていく、と思ったら手に持っていたはずのスマートフォンがなくなっているのだ。
咄嗟のことに何が起きたのか理解するのに時間がかかった。
スマートフォンが飛んでいった。何か飛んできたものに当たって飛ばされた。
「人んちの前でなにコソコソしてんの?」
初めて聞く声だ。
それはまるで少女が同い年の友達をからかうような声だった。
もちろん彼女が同い年の友達でもなければ全くの知らない人間であることは確かだが。
なるほど、非常にまずいことになった。
「…どうして質問に答えてくれないの?やましいことでも企んでる?男二人でか弱い女の子の家の前で待ち伏せだなんて」
どう考えてもか弱い女の子の家というような雰囲気ではないが。
「…アカネ」
精一杯小さい声で話しかける。
「2人がかりで、少女1人相手なら問題はなさそうですが、他に仲間がいた場合まずいですね」
相方もものすごい小さく、しかしボクにははっきりと聞こえる声で、そう答えた。
「…あー!分かった、あの二人のお友達?」
半田とべーたのことだろうか。
とりあえず話を合わせてみる。
「…そう、友達に会いにきたんだ!」
「ふふ、そうなのね、じゃあ歓迎のしるしに歌を贈らせて」
そう言うと、彼女は歌い始めた。
それはとても美しく、儚く、しかし力強い歌で、思わず聞き入ってしまう。
すると突然だった。
風を切る音と、鈍い音。
彼女の歌に夢中になっていたせいで、突然腹に飛んできた拳に気がつくのが遅くなった。
あとから痛みがじわじわ広がってくる。
殴られた?
誰に?
ここには歌を歌う少女と、共に来たアカネだけ。
少女はまだ歌っている、ボクとの距離は10mほどある。
すぐ隣にいるのはアカネだけだ。
恐る恐る声をかける。
「…アカネ?」
彼からの返事はなく、膝に直撃する力強い蹴り。
「…い゛っ………ぐっ…ぅ……あ、アカネ…どうした…の?」
容赦なく押し寄せる痛みに耐えながら尋ねる。
しかし答えはない。
「…うそ…どうして、どうして効かないの…?」
代わりに少女の焦る声が聞こえる。
そこでやっと理解する。
そうか彼女の仕業か。
「きみは…、何した…アカネに……」
「…はっ、なんであんたには効かないのよ!!…うぅん、もういいや、せいぜい楽しむといいわ!」
そう吐き捨てると走り去ろうとする。
ダメだ、逃げられては、そう思い、追いかけようとするがアカネの力強い攻撃に阻まれる。
「ヴッ……ぁ…かね…あ、、アカネ…やめて…」
彼は何も発さない。
ただひたすらに、ボクに目掛けて単純な殴る蹴るの攻撃を繰り返すのみ。
本当に単純な動き。最初に腹に入った一発さえなければ、もっと上手く動けた、こんな単純な攻撃はかわせたはずだった。
そんなことは今思っていても仕方が無い。
どうすれば、どうすれば、、、
彼は思考する暇も与えてくれない。
アカネ…アカネ…ああ、痛い、
やめて、
やめて、
ごめん、ごめんなさい、
わからない、
ごめんなさい、アカネ、わからない、
ボクはどうすれば、どうすれば、、、
アカネ…アカネ……アカネ、アカ、ネ、あ、か、、ね、あか、ね…あ…
わけがわからなくなって、怖くなって、
なぜだかボクにもわからない、彼に抱きついていた。
昨夜したのと同じように。
彼は昨夜のことを思い出してくれるかもなんて淡い期待があったのかもしれない。
直後、至近距離からのトドメの一撃が入る。
あぁ
ボクが馬鹿で、出来損ないで、弱いから、
意識が遠のいていく、
ごめん、なさい…。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
23 / 26