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室内に引き摺り込まれ、座るよう促された座布団に腰を下ろす。
正座をしても胡座を描いてもしっくり来ず、結局体育座りに落ち着いた。
向かい側に座っておきながら何も言葉を発しない法月と、二人きり。
外はかなり明るくなって来たが、放置されたリモコンでつけたテレビは、特に興味も引かないニュースを淡々と読み上げているだけだった。
「……竹内さん。先程は取り乱しました。申し訳ありません。」
「あ、…おう……。」
取り乱した先程の件というものがもはやどの件なのかもわからない俺に対し、法月は深く頭を下げる。
そもそも法月は初めから何一つ悪い事などしてはいない。
こうして謝らせてしまうのも、俺の未熟さが原因か。
「ところで…聞きたい事は沢山あるのですが、一度話を戻しましょうか。」
机に肘を置き、頬杖をつく仕草。
この姿勢でありながら、生意気さを感じさせないところは法月の凄いところだ。様になっていて、俺に向けられる目は、優しい。
「僕に話すのは嫌ですか?」
あぁ、そこまで戻してしまうのか。
俺が話せないと言ったのを相当根に持っていたらしい。
頼れる部下。出来の良い部下。会社では勿論のこと、旅先で…というと語弊はあるが。
自らの時間を割いてまで上司を慰めようとするだなんて、まさにサラリーマンの鏡だな。
「嫌、じゃ…なくてだな、その…。」
落ち込むでも、急かすでもない柔らかな笑みを崩さない表情のまま
うん、それで?と問いかけるように首を傾げる。
お前のそういうところに、俺は救われているんだと思う。
以前も佐々木にしでかしてしまった事なんかを話したら、冗談を交えつつもしっかり話は聞いてくれていたっけな。
俺が本当に嫌がる事は絶対にしないんだ。多分こいつは、それをわかった上でやっている。
だから今も、俺が本気で法月に話したく無いわけでは無いと察してくれているのだ。
俺が、本当は法月に聞いてほしいと
法月に、昨夜の件の相談相手になってほしいと思っている事は、バレているのだと思う。
「法月が、傷ついてしまうかもしれない…と、思って、あの…。」
「何言ってるんですか竹内さん。」
くすりと小さく笑いながら座り直した法月は、人形のように整った顔つきを一切崩す事なく言った。
「突然好きな人に襲われそうになったかと思えば振られて、既にこの世の終わりくらいには傷ついていますよ。これより下はありませんので、どうぞ気兼ねなく話して下さいよ。」
「うっ。」
笑顔が消えた法月も怖いが、やっぱり一番怖いのは笑顔の法月だ。
この男、侮れない。
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