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「ねー竹内さん。なんで連絡返してくれなかったんスか?…寂しかった。」
家までもうあと少しと言うところで、雨も降らない静かな車内が退屈になったのだろう。
唐突に、佐々木は口を開いた。
寂しかった…って。お前みたいな性格なら絶対に他に友達100人は居るだろう。
どうしてそこまで俺に執着するのだ。
…だから絆されるみたいに、俺までお前が気になって仕方がないんじゃないか。
友人同士の乱行パーティーのノリで俺にあんな事をした。だから変に気にして避けた俺の心情を理解する事が出来なかった、とそういう解釈で良いのだろうか。
近頃の若者はこれだから…。
おっと、これでは歳を重ねたおじいおばあと同類になってしまう。
……まあどちらにせよ、佐々木からすれば俺などおじいの部類に入るのだから変わらないか。
「…別に、気分だ。」
高校生の悪い遊びの一つで、このおじいが心を乱されると思うなよ。
そんな強がりな心が絞りだせた一言。
気づかれない事を願うばかりだが、実際メンタルはブレブレだったし、何なら体調にまで影響が出かけた。
何度でも思う事だが、たとえ俺が佐々木と同世代…同じ学年やクラスに居たとして、絶対に仲良くなる事はない。下手したら学生生活3年間一言も話さずに終える事もなくは無い。
それくらい、そもそもの耐性が成っていなのだ。
「しょ…それより、どうして佐々木こ、そ…広島なんかに居たんら…。」
ボロが出る前に慌てて話題を切り替えたものの、声は震えるし甘噛みは繰り返すしで恥ずかしい限りだ。
下手くそなのは認めるが、込み上げる笑いを両手で塞いで堪えて見せるのはよせ。
大袈裟にしなくとも、自身の口から出した言葉たちが大変不安定な完成度だったのは自覚している。
「えー、普通に考えて修学旅行っしょ?
平日に突然広島泊まらないっスよ、そこまで生き悩んでないって言うか。」
「…修学、え?でも学ランは海を越えるんじゃ…。」
「何言ってんの?」
俺にも言わせてくれ。俺は何を言ってんだ。
動揺しすぎだ。
法月の野郎、話と違うではないか。
まさかあいつ中学時代に行った所とごっちゃになったな。
「あー、学ランってあの進学校の?
違う違う!俺あそこ通ってないっスよ!」
「…?そうなのか?」
何となく察してくれる辺りは本当に佐々木の良い所だと思う。
こういう理解あるムードメーカー的存在に、俺のような窓際寄りの陰キャラは心惹かれて行くのだ。
「実は俺、転校生ってやつスよ。前の学校ので良いって言われたから学ランなだけで皆はブレザー。」
「転校?へえ…高校変えるのはまた珍しいな。
何でそんな──。」
「そーれーよーりー。」
佐々木は俺の何気ない質問を食うように声を重ね、それまで助手席の足元に置かれていたリュックを膝の上へ持ち上げる。
何か聞いてはいけない質問だったかと、こぼれかけたそれを強引に喉奥へ押し込んだ。
少し気を抜くと直ぐにこうなるから、人との付き合いは難しい。
帰っても一人…だったか。ばったり会った直後に泊まりたがると言う事は、家庭環境が複雑説も濃厚だ。
…佐々木の知られたくない部分をズケズケと踏み漁る程の精神力は俺には無い。
「竹内さんにも、やっぱお土産買っちゃったから貰ってくださいね!話もいっぱい聞いてよ!」
「…っふ、わかったよ。」
運転中なのだから仕方ないとわかってはいても、
可愛らしい笑顔でこちらを覗き込む彼を正面から見られないのは、少し残念だ。
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