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瞼が少し腫れているだろうか。
そんな事はどうでも良いか。
佐々木にとってはこの今も、次はどう苦しめてやろうかと考える楽しい時間なのだから。
俺が泣いていた方が、面白いんじゃないか?
ははっ。あまりに馬鹿らしくて笑えてくるよ。
「竹内さん大丈夫?」
「…ッ!」
こちらへ迫る足音。
心配したふりの上手い、声。
映し出される佐々木の影。
「シャワーって言ってたのに遅いからさ…。足痛かった?動けそう?」
「へ、いきっ…だから!すぐ戻……から…っ。」
遊び相手にもそんな優しく声がかけられるなんて凄いな、お前は。
俺なんか、まんまと騙されてさ。自分が特別な存在なんじゃないかって調子に乗ってさ。
馬鹿だよなあ。俺ばっかりお前に溺れて何も見えなくなって。
そりゃお前だって面白くなるよ。それとも良い奴だから情けでもかけてくれているのか?
優しいんだな。
その優しさが俺をまたダメにするんだから、悪気の無い善意ほど鋭利な武器になるってもう少し勉強した方が良い。
強く目を擦れば、すりガラス越しの影は消え、声も、足音も聞こえなくなった。
部屋に戻ってくれたのか。
よかった。
きっと最高に情けない有様は見せずに済む。
身体を拭いて、着替えるうちに、多少は気持ちの整理をつけることも出来るだろう。
両思いになりたいだとか、そんな事を期待していた訳じゃ無い。初めから。
もしも佐々木が願うなら、例の男と上手く行くための練習だとしても俺は喜んで身体を差し出すよ。
一度犯した罪なのだ。二度も三度も変わらない。
それが佐々木のためになるというのなら、いくらでも力になろう。
いつか捨てられる日まで、俺はお前の店に通うし金を落とし続けるし、可能な限り望みを叶えてやろう。
だからまだ今は、このままで…いさせてほしい。何だってするから。
下唇を噛み、浴室の扉を開ける。
敷居を跨ぐときにはやはりズキンと痛む足首が、俺の心と共鳴しているようで変な気分だ。
頭から被っていたフェイスタオルで乱暴に髪を拭き肩に掛けると、滲んだ視界の真正面に映ったのは。
「…やっぱ泣いてんじゃん。痛いくらいじゃアンタ泣かないよね。
さっきまでそんな事なかったのに…どしたの。」
「……あ、ぁひっ、く…うぅ…。」
止まった涙が、驚きに助けられてまた溢れ出すから困ったものだ。
脱衣所で待ち伏せていた佐々木は慌てて立ち上がり、大きな両手に頬を包まれる。
風呂上がりの俺の方が熱いのが当たり前なのに、なんで俺より冷たい掌が…温かくてたまらないんだろう。
「何があったの。……ねえ暁人さん、泣かないでよ。」
「ひくっ、ううう〜……。」
お前は狡いんだよ。
そんなタイミングで名前を呼ぶのはよせ。
びしょ濡れの素っ裸で泣き喚く26歳のおっさんだぞ。まだ利用価値があると思ってるのか。
まだ優しくしようと思えるのか。
なんなんだよ。どうして、俺より辛そうな顔するんだよ。
お前がわからないよ。
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