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竹内さんの悩みを解決してやれるのは俺だ。
竹内さんは人見知りで寡黙で、あまり人に相談するっていうのが得意じゃなさそうだから。
俺が竹内さんの事を助けてあげる。
俺が守ってあげる。
そしたら絶対に竹内さんは、俺に好きって言ってくれる。
ポジティブに出来ている脳味噌は、都合の良いことだけを残してあらゆるものを排除する。
これに関しては誰しもが無意識に行っているものだ。
悪い事ばかり引きずっていれば、いつか生きる事に限界を感じて精神を病んでしまうだろう。
楽観的と言われても否定はしないが、何事も重く捉える難儀な人間に比べたらずっとずっとマシな筈だ。
目に見えてわかるほど瞳から輝きを失っていく竹内さんをそれ以上無遠慮に覗き込むことは諦め、
背を曲げて体育座りしている隣に腰掛けた。
膝を抱える両手には力がこもって血管を浮き出しており、短く切り揃えられた爪は薄い肉に食い込んで痛そうだ。
真っ黒な髪が覆い隠して表情までは見えないけれど、笑っていないという事だけは確かだった。
「なあ、佐々木…。」
「うん?」
「お前に一つだけ…確認しても、いいだろうか。」
絞り出された声は酷く震え、か細くて。
一言も聞き逃したくない身体は更に距離を詰める。
「どうしたの?何でも言ってよ。」
軽々しくそんな事を言った自分を、その後俺がどれほど憎んだ事か。
現実を突きつけられる前に出る根拠の無い自信というのは、他から見ればどうしようもない愚か者の虚勢に過ぎない。
痛いくらいに感じた。
「お前は男を好きになる事が出来るんだよな。」
「え…?う、ん…まあ。」
この辺りから、頭の何処かで少しは嫌な予感がしていたかもしれない。
竹内さんの家に二人きりの状況でありながら、自然と持ち上がっていた口角はいつの間にか意識を向けないと保っていられないものへと変わっていたのだから。
引き攣っているのが自分でもわかる。
「俺は…佐々木が望むなら何だってするよ。
こうして家に呼んだり、店に迎えに行くことも出来る。求めてくれるのであれば…多少なら勉強を教えられるし、この間やホテルでした事の続き……も、する。」
最後に関しては、勿論誰にも言わない約束で。
そう付け加えた竹内さんは少し恥ずかしそうにしていたけれど、また直ぐに重たい空気が彼を包む。
今度は“暗い”の中でも最上級の…絶望感すら読み取れる、諦め切った色をしていて。
やっと目が合ったのは、竹内さんが顔を上げてくれたから。
表面張力の限界に達した目尻の盛り上がりが、今にもこぼれ落ちそうに大きく揺れた。
あ。
無理かも。
これ俺、聞きたくないやつかも知れな──…。
「だから……今している恋を、諦める事は出来ないか?」
地球上でたった一人。
俺だけの時間が、止まる。
息が吸えない。言葉が出ない。
心臓だけが唯一動き、大袈裟に鼓動を速めて。
細胞一つ一つが壊れていくみたいに…苦しさが全身を襲った。
「…できな、よ……。」
声として、言葉として、外に出せたかはわからない。
だが恋心を届けられなかった人物に、その声だけは届いていたようだ。
彼の涙の川は遂に決壊し、頬に透明な曲線を描く。
「っは、はは……そう、か…。そうだよな、すまない…ッ。」
なんで
ねえ、竹内さん。
泣かないでよ。
ねえってば。
そんなに俺は…アンタにとって迷惑だったの?
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